・・・発狂禁止令を等閑に附せる歴代政府の失政をも天に替って責めざるべからず。「常子夫人の談によれば、夫人は少くとも一ヶ年間、××胡同の社宅に止まり、忍野氏の帰るを待たんとするよし。吾人は貞淑なる夫人のために満腔の同情を表すると共に、賢明なる三・・・ 芥川竜之介 「馬の脚」
・・・――そんな事を考えながら、叱声の起った席を見ると、将軍はまだ不機嫌そうに、余興掛の一等主計と、何か問答を重ねていた。 その時ふと中佐の耳は、口の悪い亜米利加の武官が、隣に坐った仏蘭西の武官へ、こう話しかける声を捉えた。「将軍Nも楽じ・・・ 芥川竜之介 「将軍」
・・・そうして、かかることについても、作家の人物月旦やめよ、という貴下の御叱正の内意がよく分るのですけれども私には言いぶんがあるのです。まだ、まだ、言いたいことがあると申し上げる所以なのです。いずれ書きます。どうぞからだを大事にして下さい。不文、・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・図々しい、わがままだ、勝手だ、なまいきだ、だらしない、いかなる叱正をも甘受いたす覚悟です。只今、仕事をして居ります。この仕事ができれば、お金がはいります。一日早ければ一日早いだけ助かります。二十日に要るのですけれど。おそくだと、私のほうでも・・・ 太宰治 「誰」
・・・上のほうのは言わば乾性、あるいは男性的の痛さで少し肩に力を入れて力んでいればなんでもないが腰のほうへ下がって行くと痛さが湿性あるいは女性的になって、かゆいようなくすぐったいような泣きたいような痛さになる。動かすまいと思っても腰をひねらないで・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・あえて読者の叱正を祈る次第である。 寺田寅彦 「俳句の型式とその進化」
・・・多数の学者ことに教育者の側から見れば不都合な点も多くあるかもしれないし、自分でも十分に意を尽さぬために誤解を生じはせぬかと思う点もあるが、ともかくも思うままを誌して大方の叱正を待つのである。・・・ 寺田寅彦 「物理学実験の教授について」
・・・次にはさらに別の方面について所見をのべて読者の叱正を待つこととする。 いわゆる連想のうちには、その互いに連想さるべき二つの対象の間に本質的に必然な関係のあるものも多数にある。たとえば、硯と墨とか坊主と袈裟とか坊主と章魚とかいうように並用・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・曾有の大事件、もしこの事をして三十年の前にあらしめなば、即日にその党与を捕縛して遺類なきは疑を容れざるところなれども、如何せん、この時の事勢においてこれを抑制すること能わず、ついに姑息の策に出で、その執政を黜けて一時の人心を慰めたり。二百五・・・ 福沢諭吉 「旧藩情」
・・・続いて二十二日には同じく執政三人の署名した沙汰書を持たせて、曽我又左衛門という侍を上使につかわす。大名に対する将軍家の取扱いとしては、鄭重をきわめたものであった。島原征伐がこの年から三年前寛永十五年の春平定してからのち、江戸の邸に添地を賜わ・・・ 森鴎外 「阿部一族」
出典:青空文庫