・・・それを当の松岡は(これは譬噺レニンに呆れられているという事にも気づかず、「なんだ、レニンってのは、噂ほどにも無い男だ、我輩の眼光におされてしどろもどろではないか、意気地が無い!」と断じて、悠然と引上げ、「ああ、やっぱり、ヒットラーに限る! ・・・ 太宰治 「返事」
・・・こんど田舎の中学校につとめる事になったので、その挨拶かたがた。」しどろもどろの、まずい弁解であった。「行こ行こ。」妹の貞子は、二人を促し、さっさと歩いて、そうして、ただもう、にこにこしている。「久し振りね、実に、久し振りね、夏にも来てく・・・ 太宰治 「律子と貞子」
・・・このパウロの句でも無かった事には、僕の論旨は、しどろもどろで甘ったるく、甚だ月並みで、弟妹たちの嘲笑の種にせられたかもわからない。危いところであった。パウロに感謝だ、と長兄は九死に一生を得た思いのようであった。長兄は、いつも弟妹たちへの教訓・・・ 太宰治 「ろまん燈籠」
・・・彼を自殺させる女性観は、米国婦人の持つ総ての積極と自動的生活との前にしどろもどろな咆吼を致します。女性に対する誤った態度は、彼に触れる総ての女性から孤立させられますでしょう。そして、憐れな魂は、暗澹たる故郷への郷愁と、懣怨と、一層深入りした・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
出典:青空文庫