・・・ 昔者、旧水戸藩において学校の教育と一藩の政事とを混一していわゆる政治教育の風をなし、士民中はなはだ穏かならざりしことあり。政教混一の弊害、明らかに証すべし。ただ我が輩の目的とするところは学問の進歩と社会の安寧とよりほかならず。この目的・・・ 福沢諭吉 「政事と教育と分離すべし」
・・・ また、四民同権の世態に変じたる以上は、農商も昔日の素町人・土百姓に非ずして、藩地の士族を恐れざるのみならず、時としては旧領主を相手取りて出訴に及び、事と品によりては旧殿様の家を身代限にするの奇談も珍しからず。昔年、馬に乗れば切捨てられ・・・ 福沢諭吉 「徳育如何」
・・・ 願くは我が旧里中津の士民も、今より活眼を開て、まず洋学に従事し、自から労して自から食い、人の自由を妨げずして我が自由を達し、脩徳開智、鄙吝の心を却掃し、家内安全、天下富強の趣意を了解せらるべし。人誰か故郷を思わざらん、誰か旧人の幸福を・・・ 福沢諭吉 「中津留別の書」
・・・しかもそれは一人の前進的な人間の小市民的インテリゲンツィアからボルシェビキへの成長の過程であり、日本のプロレタリア解放運動とその文学運動の歴史のひとこまでもある。そのひとこまには濃厚に、日本の天皇制権力の野蛮さとそれとの抗争のかげがさしてい・・・ 宮本百合子 「巖の花」
・・・ 本誌の、この号には食糧問題、労働問題、法律上の諸問題、生活再建の市民的技術上の問題、再婚問題、産児制限の諸問題が、特輯として扱われている。 これらの題目のうちで、過去二十年間、日本の婦人雑誌が扱ったことのないというトピックが、只の・・・ 宮本百合子 「合図の旗」
・・・刑法で姦通罪において婦人には手落だった過酷さが改正されたとしても、私たちの日々の生活のなかの現実で経済危機が、市民生活のモラルの根柢をゆすぶっているとき、刑法の改正だけで人民の堕落と悲劇とはなくならない。 職場の組合の中では、この問題が・・・ 宮本百合子 「明日をつくる力」
・・・明治維新の誰でも知っているこういう特質は、「四民平等」となって、ふるい士農工商の身分制を一応とりさったようでも、数百年にわたった「身分」の痕跡は、人民生活のなかに強くのこりつづけた。明治文学の中期、樋口一葉や紅葉その他の作品に、「もとは、れ・・・ 宮本百合子 「新しいアカデミアを」
・・・笑い草ですが、余り頭が苦しくて昏々と眠るからね、もしかしたらこの頃流行の嗜眠性脳炎ではないかと思って、もしそういう疑いがあれば正気なうちにあなたに手紙を書いて置こうと思ったの。書くと云ったって結局今の私の心持で何も特別なことはないわけですが・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・けれども、周囲の雰囲気は、嗜眠病のように人を滅入らせる。―― 互に居心地わるく思っていると、もう食事の終りかけに、やっと一人、若いアメリカ人が入って来た。私共は本能的な人なつかしさで、彼が椅子の背を掴んで腰かけるのや、テーブルの下で長い・・・ 宮本百合子 「長崎の印象」
・・・そして小さい日本が大国と戦争して勝ち、つよくて金のある列強と対等のつき合いをし、応分の植民地分割にあずかるということに国内の現実からは消えた、四民平等の夢をつないだのであった。 事実、戦争がはじめられたとき、日本の人民は、はじめて権力に・・・ 宮本百合子 「平和への荷役」
出典:青空文庫