・・・それとも永年の環境からそういう習性のようなものが根深くあって、それが今日ではさながら本性のようになって見えるのではあるまいか。明日の婦人の創造力成長への課題は主にこの点への究明にかかっていると思われるのである。 日本の婦人の生活と文化の・・・ 宮本百合子 「婦人の文化的な創造力」
・・・の作者がある期間室生犀星、芥川龍之介、徳田秋声の芸術に接近したのも、前にいったような作者の一面とのつながりにおいて見れば、それが単なる偶然ではなかったことを私たちは理解するのである。作者は、古風でやかましやの学問ある医者を父に持ち、和歌や俳・・・ 宮本百合子 「文学における古いもの・新しいもの」
・・・農民の中から、赤衛軍に参加して銃を取り工場を守った労働者の中から、それ等の人々は技術的には未熟だが、これまでの世界に在った文学を根本から修正した階級的立場から、文学活動を始めた。 ところが、新経済政策は個人資本を認めた――云い換えれば、・・・ 宮本百合子 「文壇はどうなる」
・・・民衆の友、その一人であるゴーリキイが、レーニンと深い友情によって終生結ばれていたのは十分肯けることです。ロシアをさけてイタリーに住んでいたその時代に、「母」という長篇がかかれました。 一九二三年、レーニンのすすめでイタリーに住んだゴーリ・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイについて」
・・・「私は、長い間泣き面をして、その修正し難い奇怪事を眺めていた。」どうにも仕方なく遂に「想像力でもって修正することにした。」ゴーリキイは鉛筆をとり、先ず家の正面のすべての蛇腹と屋根の棟飾の上に烏や鳩、雀などを描いた。窓の前の地べたの上には洋傘・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・レーニンが指導するボルシェヴィキと修正派ボグダーノフとがマルクス主義哲学について大論争を行っていた当時、プロレタリアの世界観をわがものにしていない「マルクス主義者に近いもの」であったゴーリキイははなはだしく動揺して、ボグダーノフと雑誌を出し・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの人及び芸術」
・・・徳田秋声、菊池寛、久米正雄等の作家たちが、震災以来今日までの十五年間に生きて来た社会的な道すじ、及び今日それぞれの人々が占めているこの社会での在り場所というものを、自ら読者に考えさせる言外の暗示を少なからず含んでいるのである。 この座談・・・ 宮本百合子 「「迷いの末は」」
・・・開発のことが終生頭についていた人であるから、金を蓄える方面は一向に駄目で、島根へ、役人として袴着一人をつれて行っていた暮しの間でも、米沢の家の近所のものには太政官札を行李につめて送ってよこすそうだと噂されつつ、内輪は大困窮。その頃の旧藩士と・・・ 宮本百合子 「明治のランプ」
・・・「政府の議会に提出せる著作権法改正案に対し文芸家協会案を提げ修正を迫る。これに関連し『東京朝日新聞』誌上に『我等の主張の根本要旨』を執筆す。我々の意見殆ど全部容認され、右議案二月末貴族院を通過す。衆議院を通過することも亦決定的なり。四六・・・ 宮本百合子 「山本有三氏の境地」
・・・ 歴史とは過ぎ去った時代に私たちの祖先が如何に生き、如何に文明を進め、如何に死したかという業績の集成であるわけだが、例えばそういう過去の事実が客観的に事実そのもののまま、今日の文学の素材として生かされ得るのであろうか。 文学作品その・・・ 宮本百合子 「歴史と文学」
出典:青空文庫