・・・しかし、彼の風貌が直接私にあたえた深い信頼の感じ、さまざまな歴史の断面をつねに変らぬ努力と誠実さとをもって生きぬいて今日に至っている一箇の人間的チャムピオンの感銘は、終生私の心から消えることがないであろう。 昔から偉大な作家の例としてひ・・・ 宮本百合子 「私の会ったゴーリキイ」
・・・君の内の親玉なんぞは、秋晴とかなんとか云うのだろう。尤もセゾンはもう冬かも知れないが、過渡時代には、冬の日になったり、秋の日になったりするのだ。きょうはまだ秋だとして置くね。どこか底の方に、ぴりっとした冬の分子が潜んでいて、夕日が沈み掛かっ・・・ 森鴎外 「かのように」
・・・それは一つの強き主観の所有者が古き審美と習性とを蹂躪し、より端的に世界観念へ飛躍せんとした現象の結果であり効果である。して此の勇敢なる結果としての効果は、より主観的に対象を個性化せんと努力した芸術的創造として、新しき芸術活動を開始する者にと・・・ 横光利一 「新感覚論」
・・・大なるとがはまれであるが、小なるとがは日々に犯されるゆえに、ほっておけば習性になる。だから大きいとがは人によって許してよいが、小さいとがは決して許してはならないのである。こういう算用を戦国武士が丹念にやっていたということは、注目に価すると言・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
出典:青空文庫