・・・ それで、各地方でこういう風の日々変化の習性に通じていれば、その変化の異常から天気の趨勢を知る手がかりが得られるわけである。たとえば東京で夏の夕方風がなげば、それは南がかった風の反対するような気圧傾度が正常の傾度に干渉している、すなわち・・・ 寺田寅彦 「海陸風と夕なぎ」
・・・ もし空想をたくましゅうすることを許されれば、最初は宗教的儀式としてやっていた事が偶然鐘の音に対してある有利な効果のある事を発見し、次いでそれが鋳物の裂罅から来る音響学的欠点を修正するためだということに考え及び、そうして今度は意識的にそ・・・ 寺田寅彦 「鐘に釁る」
・・・今後の戦争科学者はありとあらゆる動物の習性を研究するのが急務ではないかという気がして来る。 光の加減で烏瓜の花が一度に開くように、赤外光線でも送ると一度に爆薬が破裂するような仕掛も考えられる。鳳仙花の実が一定時間の後に独りではじける。あ・・・ 寺田寅彦 「烏瓜の花と蛾」
・・・今後の戦争科学者はありとあらゆる動物の習性を研究するのが急務ではないかという気がして来る。 光のかげんでからすうりの花が一度に開くように、赤外光線でも送ると一度に爆薬が破裂するような仕掛けも考えられる。鳳仙花の実が一定時間の後にひとりで・・・ 寺田寅彦 「からすうりの花と蛾」
・・・それが浴衣がけの頬かぶりの浴客や、宿の女中たちの間に交じって踊っている不思議な光景は、自分たちのもっている昔からの盆踊りというものの概念にかなりな修正を加えさせる。それに蓄音機のとる音頭の伴奏の中には、どうも西洋楽器らしいものの音色が交じっ・・・ 寺田寅彦 「沓掛より」
・・・ それは美しい秋晴の日であったが、ちょうど招魂社の祭礼か何かの当日で、牛込見附のあたりも人出が多く、何となしにうららかに賑わっていた。会場の入口には自動車や人力が群がって、西洋人や、立派な服装をした人達が流れ込んでいた。玄関から狭い廊下・・・ 寺田寅彦 「雑記(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・ 翌朝港内をこめていた霧が上がると秋晴れの日がじりじりと照りつけた。電車で街を縦走して、とある辻から山腹の方へ広い坂道を上がって行くと、行き止まりに新築の大神宮の社がある。子守が遊んでいる。港内の眺めが美しい。この山の頂上へ登られたら更・・・ 寺田寅彦 「札幌まで」
・・・ 人類を幸福に世界を平和に導く道は遼遠である、そこに到達する前にまずわれわれは手近なとんぼの習性の研究から完了してかからなければならないではないか。 このとんぼの問題が片付くまでは、自分にはいわゆる唯物論的社会学経済学の所論をはっき・・・ 寺田寅彦 「三斜晶系」
・・・自分の顔のどこかを少しばかりどうか修正すれば父の顔に近よりやすい傾向があるのだろう。それで毎日いろいろに直したり変えたりしているうちには偶然その「どこか」にうまくぶつかって、主要な鍵に触れると同時に父の顔が一時に出現するのであろう。 そ・・・ 寺田寅彦 「自画像」
・・・それで、ただ一概に断片的な通俗科学はいかなる場合でも排斥すべきものであるかのような感を読者にいだかせるような所説に対しては、少なくも若干の付加修正を必要とするであろうと思われた。この機会についでながら付記しておく次第である。 ・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
出典:青空文庫