・・・故人北原多作氏のごとき少数な篤学の官吏の終生の努力と熱心によってようやく水産に聯関した海洋調査がやや系統的に行われるようになりはしたが、自分の知る限りでは時々の政府の科学的理解のない官僚の気まぐれなその日その日の御都合による朝令暮改の嵐にこ・・・ 寺田寅彦 「新春偶語」
・・・ 下手な論文を書いて見ていただくと、実に綿密に英語の訂正はもちろん、内容の枝葉の点に至るまで徹底的に修正されるのであった。一度鉛筆で直したのを、あとで、インキでちゃんと書き入れて、そうして最後に消しゴムですっかり鉛筆を消し取って、そのち・・・ 寺田寅彦 「田丸先生の追憶」
・・・これを治療するにはやはり余裕のある人を模倣する事によって習性を改める外はない」と論じている。これを読んでなるほどと感心した。 しかしまだどうもこの説には充分に腑に落ちないところがある。もし東京にあの風が吹かなかったら、もし東京の街の泥と・・・ 寺田寅彦 「電車と風呂」
・・・には単なる似顔の集成でなく、各メンバーの排置のみならずそのポーズや服装によって各自の個性を表現しようという苦心の痕が覗われる。とにかく、このような同人群像を試みるとしてはおそらく最も適任な石井氏が更に研究を重ねてこの絵の完成に勉められること・・・ 寺田寅彦 「二科展院展急行瞥見記」
・・・このような地形は漂泊的な民族的習性には適せず、むしろ民族を土着させる傾向をもつと思われる。そうして土着した住民は、その地形的特徴から生ずるあらゆる風土的特徴に適応しながら次第に分化しつつ各自の地方的特性を涵養して来たであろう。それと同時に各・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
・・・これを逐次修正して言語学者の要求に応ずるように近づけて行くことは必ずしも困難ではないが、ここではしばらくこれ以上に立ち入らない事にする。 要するにこれは、表題にも掲げたとおり、比較言語学上における統計学的研究の可能性を暗示するための一つ・・・ 寺田寅彦 「比較言語学における統計的研究法の可能性について」
・・・これは人間の祖先の猿が手で樹枝からぶら下がる時にその足で樹幹を押えようとした習性の遺伝であろうと言った学者があるくらいであるから、猫の足踏みと文明人のダンスとの間の関係を考えてみるのも一つの空想としては許されるべきものであろう。・・・ 寺田寅彦 「備忘録」
・・・と云ってそれを修正する。その先生の態度がいかにも無邪気で、ちっとも威張らず気取らないのが実に愉快で胸がすくようであった。 プランクの明るい感じと反対にアドルフ・シュミット教授は何となく憂鬱な感じのする人であった。いつも背広の片腕に黒い喪・・・ 寺田寅彦 「ベルリン大学(1909-1910)」
・・・それが量的に一部は確定され一部は修正されるのにはやはりかなりに長い月日を要するのである。 もちろん質的の思いつきだけでは何にもならないことは自明的であるが、またこれなしには何も生まれないこともより多く自明的である。西洋の学界ではこの思い・・・ 寺田寅彦 「量的と質的と統計的と」
・・・そうしてみた後にわれわれは、事によると、せっかくのその修正の成果が意外にも単調一律なよそ行きの美句の退屈なる連鎖になりおおせたことを発見して茫然自失するようなことになりはしないか。 連句と音楽とのいろいろな並行性を考えるときに、いつも私・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
出典:青空文庫