・・・このほか一八三九年には、イエニーのために「民謡集成」という民謡集をこしらえた。若いカールは、そうしてイエニーへの思いを詩にたくしながら、法律・哲学・歴史の研究にうちこんで「すぐれた勉強」をつづけた。 このベルリン時代は、大学の課目以外の・・・ 宮本百合子 「カール・マルクスとその夫人」
・・・だろう、自分はまるで未知未見な生活に身を投じて、辛い辛い思いで自分を支えて行かなければならない――ここで、人として独立の自信を持ち得ない、持つ丈の実力を欠いている彼女は、何処かに遺っている過去の、殆ど習性にさえ成った日蔭の依頼主義の底力に押・・・ 宮本百合子 「概念と心其もの」
・・・健全な結婚ということの実際は、十人の子供を持ったという結果からだけではなくて、その子供たちの父と母とが終生人間としての向上心を失わず、父は旧来の男の習俗におちず妻に対して誠実であるということからも見られて行かなければならないだろう。 そ・・・ 宮本百合子 「結婚論の性格」
・・・然し平等院の眺めでさえ、今日では周囲に修正を加えて一旦頭へ入れてからでないと、心に躍り込んで来る美が尠い。「――京都の文化そのものがそうじゃない? 大ざっぱに云って」「或る点そう思う、私も」 全然反対の例にとれる龍安寺の石庭のこ・・・ 宮本百合子 「高台寺」
・・・と題する感想を終ろうとしたら、もうベッドに入ってからつる公がやって来て、詩の話や秋声の話やらをしてすっかり予定が変更。けさは十時頃おき、書きあげた原稿をナウカへ届けて、それからスエ子が三四日前から入院したケイオーへまわろうとしましたが、本屋・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・こんにちの社会と文学の話として、なっとくしようとすれば、田村泰次郎が、きょうのすべての彼自身の現実について修正声明ぬきに、その意図として「『罪と罰』『ボァリー夫人』『女の一生』『凱旋門』に通じる道がひらけるに違いない」と確信しているというこ・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
・・・それによって我々は修正しさらに前進する。 監督は再び少年少女達の横をしずかに通りすぎながら、日本女にねばりづよい熱情をもってささやいた。 ――御覧なさい、彼らはほんとにソヴェトの新人間です。なんと彼らが育つことか! 幼児が図書館・・・ 宮本百合子 「子供・子供・子供のモスクワ」
・・・けれども、配給とりも直さず万事あてがい扶持で、唯々諾々と生きる無気力の習性となるなら、それは堕落と云われなければならない。私たちは自分たちの世代において文化を堕落させたという責を、愛する後代から指摘されることは欲していないのである。〔一九四・・・ 宮本百合子 「今日の生活と文化の問題」
・・・今日私たちの目の前にある近代古典と云うべき作品の多くはこれらの時期に書かれたものであるし、古典的な権威として今日或る意味で価値ある文学上の存在をつづけている作家たち、例えば島崎藤村、徳田秋声、谷崎潤一郎、永井荷風、志賀直哉、武者小路実篤等は・・・ 宮本百合子 「今日の文学と文学賞」
・・・例えば、島崎藤村、徳田秋声等は、日本の資本主義が勃興の途についたロマンチシズムの時代から、自然主義の時代、白樺等によって唱えられた人道主義の時代、更に社会の推進につれて生じた新たな階級の文学運動の開始等、明治から昭和に至る日本文化の縦走をそ・・・ 宮本百合子 「今日の文学の鳥瞰図」
出典:青空文庫