・・・そして、第三に、よむものの心をうつことは、商業的な文化の上では猟奇のヒロインのように描き出される彼女たちが、電車にのると、パン助野郎、歩いて行け、とののしられたりするということである。娘たちは、真赤にルージュをぬった唇から、なるたけ歩くよう・・・ 宮本百合子 「偽りのない文化を」
・・・早くから商業が発達し、学問が進み、人間の独立と自由とを愛する気風が培われていたライン州では、一七八九年にフランスの大革命が起った時、ジャコバン党の支部が出来、ドイツ人でフランス革命のために努力した人々が沢山あった。ナポレオンの独裁がはじまっ・・・ 宮本百合子 「カール・マルクスとその夫人」
・・・ハンザ同盟に加っていたヨーロッパのいくつかの自由都市は、それぞれのわが市から出発して商業の上で世界を一まわりしていたばかりでなく、当時の文化を、めいめいのところで最高にまで開花させていたのであった。 寧ろ、現代の資本主義が強く文化分野を・・・ 宮本百合子 「木の芽だち」
・・・瀝青ウラン鉱からラジウムを引き出すことに成功した彼らが、その特許を独占して商業的に巨万の富を作ってゆくか、それとも、あくまで科学者としての態度を守ってその精錬のやり方をも公表し、人類科学の為に開放するか、二つの中のどちらかに決定する種類のも・・・ 宮本百合子 「キュリー夫人」
・・・「私たちの発見に商業的な未来があるとしてもそれは一つの偶然で、それを私たちが利用するという法はありません。」ラジウムが病人を治す役に立つからと云って、そこから儲けることなどマリヤには思いも及ばないことであったのです。ピエールとマリヤは科学者・・・ 宮本百合子 「キュリー夫人の命の焔」
・・・農村、都会とも、小学校はギリシア正教の僧侶に管理された。貧農、雇女の子供は中学にさえ入れなかった。猶太人を或る大学では拒絶した。「十月」は、翻る赤旗とともに、すべてこういうプロレタリア、農民への重石をはねのけ、猛然と文盲撲滅をはじめた。・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェト同盟の文化的飛躍」
・・・また、アメリカ聖教会機関紙『ウイットネス』は、MRAの労資協調論を批評して「美くしい宗教言辞のかげでMRAはなぜ世界最大の財団デュ・ポンの恩寵をうけねばならないのか」と急所をついている。 ジェスチュアでない世界平和と民主的社会の建設のた・・・ 宮本百合子 「再武装するのはなにか」
・・・ 一番自分に似合う髪をやっと見つけたと思ったら、そういうわけなので、私は悲しいし、いやだし、心持をもてあまして、それから当分はまるで桜井の駅の絵にある正行のように、白い元結いで根のところを一つくくっただけの下げ髪にしていたことがあった。・・・ 宮本百合子 「青春」
・・・ もちろん彼女は、正行の母、橘姫などが感歎すべき婦人として、小学校にいたときから屡々話されたのは覚えてい、知っている。 けれども、彼女は自分とその人々との時代を隔てている「時」をとりのけにして考えることは出来なかった。 あの時代・・・ 宮本百合子 「地は饒なり」
・・・ゴーリキイを憤怒させた哀れな中小僧サーシャの雀の聖骸の物語は欧州の科学的文化の進歩に対してロシアの社会の封建制、ギリシア正教がどのようにおくれたものであったか、そして、そのために民衆の想像力はどのような形で迷信に縛りつけられていたかというこ・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
出典:青空文庫