・・・ 女性そのものの成長のそのような願いは激しく、しかも実に極々のむずかしさに遭遇していて、その表現としての文学作品にさえ、現代の婦人の生きる姿に蒙らされている何かの傷痕が見えている有様である。 子供のための本を書く女性というものの出現・・・ 宮本百合子 「子供のためには」
・・・ そのときは、もう十六ではなかったし、仮にも大学というところで、校長はあんなに自由とか天才とかいうくせに、何たるけちくさい性根であろう、と大いに腹を立ててそんな校風なら髪は直さないが運動会へなんか来ない、と行かなかったこともあったりした・・・ 宮本百合子 「青春」
・・・などと云う時、ははんと寥しいのは、私の性根がひねくれているのだろうか? 奈良の僧侶の多くの者は、祖先の遺産が沢山すぎ立派すぎて或る点スポイルされていると私は思った。種々な人間が、天平、弘仁の造形美術の傑作を研究し、観賞しに奈良を訪ねる。・・・ 宮本百合子 「宝に食われる」
・・・孜々として鼻息をうかがっているものなのだそうであるが、リオンスはそういう皮肉そうな言葉づかいでとりもなおさず自身の事大主義的な性根を暴露しているのである。 そうかと思うと、勝野金政の小説がのっており、私はこの小説がどんな意企で、なんのた・・・ 宮本百合子 「近頃の話題」
・・・その上彼自身が率直に認めている性根の弱さ、そして彼に関するあらゆる伝記者がツルゲーネフの進歩的なものに対する敏感さとともに特筆している意志の弱さ、優柔不断な気質などが作用して、彼は同時代の西欧派に属する芸術家、思想家でもニェクラーソフやベリ・・・ 宮本百合子 「ツルゲーネフの生きかた」
・・・一日に何度も薄茶なんか立てさせて飲む性根で、土方の仕事のしめくくりがつくと思うかと云った。政恒は、その日から薄茶を断って生涯を終った。政恒は六十歳で没した。六十歳の息子のなきがらの前にややしばらく坐っていた八十一歳の曾祖母は、おうん、と嫁で・・・ 宮本百合子 「明治のランプ」
・・・ そして、きわめて純粋な英国式解釈で、一般大英国人の社会奉仕の観念につき、商魂につき強固な社会的訓練および公平な勝負の価値について古物的な東方からの客を啓蒙する。 ある夕方、日本女がその客間に坐っている。彼女はロンドン表通りに於て他・・・ 宮本百合子 「ロンドン一九二九年」
・・・ 彼はそれらのものとその性根において妥協することが出来なかった。また或る種の人々のように工合よく屈辱に自分を馴らすために物わかりのよい人間に自分を作りなおすことも出来なかった。さりとて当時の若いゴーリキイには一人の青年としてすぐ周囲の環・・・ 宮本百合子 「私の会ったゴーリキイ」
・・・内からもり上がってくる青春の情熱は、それにもかかわらず、ありのままのおのれを露呈するように迫ってくるが、しかしそういう激発があっても、普通の場合ならば傷痕を残さずにすむような出来事が、ここでは冷厳な現実のために、生涯癒えることのない大きい傷・・・ 和辻哲郎 「藤村の個性」
出典:青空文庫