・・・出版の都度々々書肆から届けさしたという事で、伝来からいうと発行即時の初版であるが現品を見ると三、四輯までは初版らしくない。私の外曾祖父は前にもいう通り、『美少年録』でも『侠客伝』でも皆謄写した気根の強い筆豆の人であったから、『八犬伝』もまた・・・ 内田魯庵 「八犬伝談余」
・・・お前は知るまいが、初版は千五百部で以後五百部ずつ版を重ねたのだ。「――なぜ、こんな本が売れるのでしょう?」 と、出版屋も不思議がったくらいだが、不思議でもなんでもない。お前が買うから売れたのだ。出る尻から本が無くなるので、出版屋は首・・・ 織田作之助 「勧善懲悪」
「晩年」も品切になったようだし「女生徒」も同様、売り切れたようである。「晩年」は初版が五百部くらいで、それからまた千部くらい刷った筈である。「女生徒」は初版が二千で、それが二箇年経って、やっと売切れて、ことしの初夏には更に千・・・ 太宰治 「「晩年」と「女生徒」」
最初の創作集は「晩年」でした。昭和十一年に、砂子屋書房から出ました。初版は、五百部ぐらいだったでしょうか。はっきり覚えていません。その次が「虚構の彷徨」で新潮社。それから、版画荘文庫の「二十世紀旗手」これは絶版になったよう・・・ 太宰治 「私の著作集」
・・・物理化学の諸般の方則はもちろん、生物現象中に発見される調和的普遍的の事実にも、単に理性の満足以外に吾人の美感を刺激する事は少なくない。ニュートンが一見捕捉しがたいような天体の運動も簡単な重力の方則によって整然たる系統の下に一括される事を知っ・・・ 寺田寅彦 「科学者と芸術家」
・・・この音が伝わって行く際にエネルギーが搬ばれると考えると、少しも矛盾なく諸般の現象を説明する事が出来る。光は熱を生じ化学作用を起しまた圧力を及ぼして機械的の仕事をする。音も鼓膜を動かして仕事をし、また熱にも変ずる。しかるに此のごとく搬ばれ彼の・・・ 寺田寅彦 「物質とエネルギー」
・・・の難解のことに於て、全く我々読者を悩ませる。特に「ツァラトストラ」の如きは、片手に註解本をもつて読まない限り、僕等の如き無識低能の読書人には、到底その深遠な含蓄を理解し得ない。「ツァラトストラ」の初版が、僅かにただ三部しか売れなかつたといふ・・・ 萩原朔太郎 「ニイチェに就いての雑感」
・・・ 四 今日の勘 芸術諸般の極意に達する心理的、生理的な過程を、日本人は勘という表現であらわして来た。ある程度までは説明がつく、それから先は勘でのみ会得されるものだ、そこにその道の極意は秘せられている。そういう意・・・ 宮本百合子 「文学上の復古的提唱に対して」
・・・そこで私はあの本の初版に拠って、「ファウスト作者伝」と云うものを書いて、これも文芸委員会へ出して置いた。但しビイルショウスキイは「ウルファウスト」を知って「ウルマイステル」を知らなかった。「ウルマイステル」はビイルショウスキイが死んだ後に発・・・ 森鴎外 「訳本ファウストについて」
出典:青空文庫