・・・ 思え、熾烈無比の太陽は、何ものをも焼きつくさんとしているではないか。ために大地は熱し、石は焼け、瓦は火を発せんばかりとなり、そして、河水は渇れ、生命あるもの、なべてうなだれて見えるのに、一抹の微小なる雲が、しかも太陽直下の大空に生れて・・・ 小川未明 「常に自然は語る」
・・・イデアリストの青年にあっては、学への愛も恋への熱もともに熾烈でなくてはならぬ。この二つの熱情の相剋するところに学窓の恋の愛すべき浪曼性があるのである。 かようにして私は真摯な熱情をもって、学びの道にある青年の、しかも理想主義の線にそって・・・ 倉田百三 「学生と生活」
・・・初老に近い男の、好色の念の熾烈さに就いて諸君は考えてみたことがおありでしょうか。或る程度の地位も得た、名声さえも得たようだ、得てみたら、つまらない、なんでもないものだ、日々の暮しに困らぬ程の財産もできた、自分のちからの限度もわかって来た、ま・・・ 太宰治 「女の決闘」
・・・病気がなおって、四年このかた、私の思いは一つであって、いよいよ熾烈になるばかりであったのである。私も、所詮は心の隅で、衣錦還郷というものを思っていたのだ。私は、ふるさとを愛している。私は、ふるさとの人、すべてを愛している! 招待の日が来・・・ 太宰治 「善蔵を思う」
・・・穹窿の如き蒼天は一大玻璃器である。熾烈な日光が之を熱して更に熱する時、冷却せる雨水の注射に因って、一大破裂を来たしたかと想う雷鳴は、ぱりぱりと乾燥した音響を無辺際に伝いて、軈て其玻璃器の大破片が落下したかと思われる音響が、ずしんと大地をゆる・・・ 長塚節 「太十と其犬」
・・・いでもない作家、一面には社と社との激烈な競争によって刺戟され、一面には報道陣の戦死としての矜りから死を突破しようとさえする従軍記者でもない作家、謂わば、命を一つめぐってそれをすてるか守るかしようとする熾烈な目的をも、立場の必然からはっきりと・・・ 宮本百合子 「明日の言葉」
・・・彼が戦闘的唯物論者らしく部落内の現象の分析綜合をなし得たら、「彼女の古い精神がいかに社会変革をきらっていようとも彼女のからだ――生活はこれを熾烈に要求しているのだ。要求せざるを得なくなっているのだ。」という二元論は成り立たぬであろう。古い伝・・・ 宮本百合子 「一連の非プロレタリア的作品」
・・・ある人によれば、これらの婦人たちの性のクレイムが彼女たちの熾烈な平和への要求となっていると説明されるのかもしれないが、その要求は、フロイド時代の棗の実の夢、その他に表現される潜在的な形をとらない。彼女たちは政治的に平和のための運動を世界にひ・・・ 宮本百合子 「心に疼く欲求がある」
・・・続いてその三年目は、逝けるレフ・トルストイが目醒めないながらも熾烈に働く人間精神の欲求によってさぐり求めていた万民の幸福への、至難多岐な第一歩がロシア全土に於て踏み出された年である。 父を理解しない当時の国家の権力までをつかって、財産を・・・ 宮本百合子 「ジャンの物語」
・・・ 新たなリアリズムの本道を示すような健康な作品の出現が要求されているのであるが、現在の大勢では、過去のプロレタリア文学に欠けていた文学の多様性、独自性、複雑性への興味関心が熾烈である。それに連関して芸術作品の「文字の背後の雰囲気」「噛み・・・ 宮本百合子 「新年号の『文学評論』その他」
出典:青空文庫