・・・そうして将来の詩人には、従来の詩に関する知識ないし詩論は何の用をもなさない。――たとえば詩はすべての芸術中最も純粋なものであるという。ある時期の詩人はそういう言をもって自分の仕事を恥かしくないものにしようと努めたものだ。しかし詩はすべての芸・・・ 石川啄木 「弓町より」
・・・私ばかりじゃなかった、昼は役所へ出勤する人だったからでもあろうか、鴎外の訪客は大抵夜るで、夜るの千朶山房は品詩論画の盛んなる弁難に更けて行った。 鴎外は睡眠時間の極めて少ない人で、五十年来の親友の賀古翁の咄でも四時間以上寝た事はない・・・ 内田魯庵 「鴎外博士の追憶」
・・・ただその頃私は純粋経験という考を中心として考えていたので、 Sur les donnes immdiates de la conscience.[『意識に直接与えられているものについての試論』]という書名に誘われたのである。しかし最初にベル・・・ 西田幾多郎 「フランス哲学についての感想」
・・・その仏を駁撃するはあたかも儒者流の私なれども、この私論の結果をもって惑溺を脱したるは、偶然の幸というべし。支那の儒者も孔孟の道を尊び、日本の儒者も孔孟の書を読み、双方ともにその教の源を同じゅうして、その社会に分布したる結果において、まっ・・・ 福沢諭吉 「物理学の要用」
・・・等の内面的旋律までを考えて日本古来の詩形を不朽な規範と考える態度に対して筆者の行っている理論的究明も、今日の現実の錯綜の中にあっては、結局萩原氏の詩論の心的・社会的因子にまでふれないと、読者にはぴったりと来ない。「新日本文化の会」のメムバー・・・ 宮本百合子 「ペンクラブのパリ大会」
・・・そういうまちがいを結果しないために理論家のしなければならないことは、理論家たちがきょうまだ多分に身につけている「私論的要素」をはやく乗りこえることである。一つ一つの作品を分析し、綜合し、生きた作品として評価しつつ、その作品が日本の人民的民主・・・ 宮本百合子 「両輪」
・・・法学博士穂積重遠、中川善之助両氏の責任監輯で、各巻第一部史論篇、第二部法律篇全部で五巻十冊の予定である。内容は婚姻。離婚。親子。家。相続。各巻をなしていずれも、今日に至るまでの社会の歴史の発達の面からの史論と、現在行われているそれぞれに関係・・・ 宮本百合子 「若い婦人のための書棚」
出典:青空文庫