・・・男子の真価は、武術に在り! (一座色をなせり。逃仕度強くなくちゃいけない。柔道五段、剣道七段、あるいは弓術でも、からて術でも、銃剣術でも、何でもよいが、二段か三段くらいでは、まだ心細い。すくなくとも、五段以上でなければいけない。愚かな意見と・・・ 太宰治 「花吹雪」
・・・ず、これからも女性に隷属する事なく、男性と女性の融和を図り、以て文化日本の建設を立派に成功せしむる大人物の筈である事、だからあなたも、元気を出して、日本に帰ったら、二人の兄弟と力を合せて、女神の子たる真価を発揮するように心掛けるべきです、と・・・ 太宰治 「女神」
・・・お互いが、相手の真価を発見して行くためにも、次々の危機に打ち勝って、別離せずに結婚をし直し、進まなければならぬ。王子と、ラプンツェルも、此の五年後あるいは十年後に、またもや結婚をし直す事があるかも知れぬが、互いの一筋の信頼と尊敬を、もはや失・・・ 太宰治 「ろまん燈籠」
・・・でもやはり古典になってしまうであろう、義太夫音楽でも時とともに少しずつその形式を進化させて行けば「モロッコ」や「街の灯」の浄瑠璃化も必ずしも不可能ではないであろう。こんな空想を帰路の電車の中で描いてみたのであった。 このはじめて見た文楽・・・ 寺田寅彦 「生ける人形」
・・・それからまた、眼底網膜の視像の持続性を利用するという点ではゾートロープやソーマトロープのようなおもちゃと似た点もあるが、しかしこれらのものと現在の映画――無声映画だけ考えても――との間の差別は単なる進化段階の差だけでなくてかなり本質的な差で・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・ しかしこの映画はまたまさにそういう点から見て、未来の音映画の進化の径路を暗示するものと思われる。この映画の傾向を次第に発展させて行けば結局は日本固有の俳諧連句を視覚化したようなものに近づいて行くであろうと思う。私は日本の一流の映画家、・・・ 寺田寅彦 「音楽的映画としての「ラヴ・ミ・トゥナイト」」
・・・ 人間の文化が進むにつれて、文学も進化しなければならないはずである。すべての世間の科学的常識が進んで行く世の中に文学だけが過去の無知を保守しなければならないという理由はどうにも考えられない。人間の文学が人間の進歩に取り残されてはいたし方・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・これはしかし、修練による人間そのものの進化によって救われないものであろうか、要するに観測器械としての感官を生理的心理的効果の係蹄から解放することが、ここに予想される総合的実験科学への歩みを進めるために通過すべき第一関門であろうと思われる。・・・ 寺田寅彦 「感覚と科学」
・・・ 科学上の知識の真価を知るには科学だけを知ったのでは不充分である事はもちろんである。外国へ出てみなければ祖国の事がわからないように、あらゆる非科学ことに形而上学のようなものと対照し、また認識論というような鏡に照らして批評的に見た上でなけ・・・ 寺田寅彦 「相対性原理側面観」
・・・ しかし不幸にして科学が進歩するとともに科学というものの真価が誤解され、買いかぶられた結果として、化け物に対する世人の興味が不正当に希薄になった、今どき本気になって化け物の研究でも始めようという人はかなり気が引けるであろうと思う時代・・・ 寺田寅彦 「化け物の進化」
出典:青空文庫