・・・なぜ連続するかは哲学的にまたは進化的に説明がつくにしても、つかぬにしても連続するのはたしかであるから、これを事実として歩を進めて行く。 そこでちょっと留まって、この講話の冒頭を顧みると少々妙であります。最初には私と云うものがあると申しま・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・「世の中の事は乱雑で法則がないようですがよく御覧になると皆進化の道理に支配されております……進化……分りますか」。まるで赤ん坊に説教するようだ。向は親切に言ってくれるんだから、へーへーと云っているより仕方がない。それはこの婆さんのようにベラ・・・ 夏目漱石 「倫敦消息」
・・・抑も在昔封建門閥の時代に政治を始めとして人間万事圧制を以て組織したる世の中には、男女の関係も自から一般の風潮に従い、男子は君主の如く女子は臣下の如くにして、其尊卑を殊にすると同時に、君主たる男子は貴賤貧富、身分の区別こそあれ、其婦人に接する・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・鴎外はこの作品において、封建時代の武士のモラル、生活感情のなかで殉死の許可の有る無しはどのような社会的評価と見られる習慣であったか、殉死を許す主君の心理に、経済事情に迄及ぶどんな現実的な臣下への考慮もふくまれたかということなどを、殉死を許さ・・・ 宮本百合子 「鴎外・芥川・菊池の歴史小説」
・・・物質と精神との力で、科学の力を最も活溌に毎日の市民生活にとり入れているはずのアメリカの一つの州では、宗教上の偏見からダーウィンの進化論について講義することを禁じられているという信じられないような事実もある。コフマンはアメリカの人だから、自分・・・ 宮本百合子 「科学の常識のため」
・・・ 五箇年計画と資本主義世界の行きづまりとの激しい対立を目撃したソヴェトのプロレタリアートは、社会主義社会建設の真価とプロレタリア文化の値うちをしんから理解した。 彼等は、文学をもうただ専門家に書いて貰って読むというだけの、受け身な立・・・ 宮本百合子 「「鎌と鎚」工場の文学研究会」
・・・マーニャが、天性の勤勉さ、緻密で、敏活な頭脳を、こうしてごく若いころから自分の功名のためだけに使おうなどとは思いもしなかった気質こそ、後年キュリー夫人として科学者、人間としての彼女の真価をきめるものとなったと思います。 姉のブローニャが・・・ 宮本百合子 「キュリー夫人の命の焔」
・・・ 自分は、愛の深化ということは、最も箇性的な、各自の本質的なものだと思わずにはいられません。 従って、既成の倫理学の概念や習俗の力は、いざという時、どれ程の力を持っているのかは疑います。これ等はただ、その人の内奥にある人格的な天質が・・・ 宮本百合子 「偶感一語」
・・・社会進化の必然という原理については理性的に十分わかった。自身の生涯の道も、それに呼応するものでしかありえないと思える。だが、その原理の理説には、なにか人間らしいゆたかな詩情が欠けている。やさしい愛と慰藉とに欠けている。その心情的な飢渇がいや・・・ 宮本百合子 「現代の主題」
・・・ですから楽園の話が出来ましたときには、もう人間の社会は大分進化しており、そのころには、世の中に奴隷の労働があったということがわかります。他人から労働を強制され、自分の喜びもなにもなく、暮さなければならないという人々の大きな層があって、その上・・・ 宮本百合子 「幸福について」
出典:青空文庫