・・・かくの如きはすなわち、辛苦数年、順良の生徒を養育して、一夜の演説、もってその所得を一掃したるものというべし。 ただにこれを一掃するのみならず、順良の極度より詭激の極度に移るその有様は、かの仏蘭西北部の人が葡萄酒に酔い、菓子屋の丁稚が甘に・・・ 福沢諭吉 「経世の学、また講究すべし」
・・・夫が妻の辛苦を余処に見て安閑たるこそ人倫の罪にして恥ず可きのみならず、其表面を装うが如きは勇気なき痴漢と言う可し。一 女子少しく成長すれば男子に等しく体育を専一とし、怪我せぬ限りは荒き事をも許して遊戯せしむ可し。娘の子なるゆえにとて自宅・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
・・・すでに誉れなく、また利益なし、何のために辛苦勤学したるやと尋ねらるれば、ただ今にても返答に困る次第なれども、一歩を進めて考うれば説なきにあらず。 すなわち余は日本の士族の子にして、士族一般先天遺伝の教育に浴し、一種の気風を具えたるは疑も・・・ 福沢諭吉 「成学即身実業の説、学生諸氏に告ぐ」
・・・内行を慎むが如き、非常の辛苦にあらず。在昔はこれを戒むるの趣意、単にその人の一身にありしことなれども、今は則ち一国の栄辱に関して、更に重大の事とはなりたり。身を思い国を思う者は、深く自ら省みる所なかるべからざるなり。「日本男子論」の一編・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・、文に武に智に勇におのおの長ずるところを殊にすれども、戦国割拠の時に当りて徳川の旗下に属し、能く自他の分を明にして二念あることなく、理にも非にもただ徳川家の主公あるを知て他を見ず、いかなる非運に際して辛苦を嘗るもかつて落胆することなく、家の・・・ 福沢諭吉 「瘠我慢の説」
・・・これらの婦人作家は、みな少女時代から辛苦の多い勤労の生活をして来て、やがて妻となり母となり、本当に女として生きてゆく希望、よろこび、その涙と忍耐とを文学作品に表現しようとして来た人々なのである。 戦争の永い間、私たちは声を奪われ、文字を・・・ 宮本百合子 「明日咲く花」
・・・面にだけ立脚したプレハーノフの理論の時代から辛苦の結果、数歩をすすめて来ている。物は人を動かすが、人が又物をいかに強力にうごかすかという人類の能動力その相互関係において有機的に芸術を見、且つ生もうとする段階に到達しているのである。徳永氏が傑・・・ 宮本百合子 「明日の言葉」
・・・この事情は、国内的には人民の生活に重すぎる税となって重荷を加え、婦人子供の辛苦はひとしお深まってきていることを意味します。失業はふえ、生活費は高くなり、生活の安定は社会の全面でくずれかかってきています。 日本の状態は、日本のわたしたちの・・・ 宮本百合子 「新しいアジアのために」
・・・ 同じ辛苦をしながらも、親たちが、いつも明るい愛と勇気と、率直公平な物わかりよさをもって困難をしのいでゆくならば、子供たちは、困苦の中にも伸び伸びとして育つものです。これまでにしろ、誰が金持の子なら必ず立派だと考えていたでしょう。却って・・・ 宮本百合子 「新しい躾」
・・・は、三十年もアメリカに移民労働者として辛苦の生活をしている動物と子供のすきな日本人中野が、市場で亀をひろって育てたことから亀のチャーリーとあだ名され、アメリカの子供の人気を博しつつ、日本の切手や菓子その他を宣伝用具として子供らを教育し、ピオ・・・ 宮本百合子 「一連の非プロレタリア的作品」
出典:青空文庫