・・・張り……それはあなたの身上です。ピンと来るようなところが全く気持がいい。あれであなたから都会人の感傷性とをマイナスすれば当然ソシアリストになる人柄です……と云うと胸が悪くなりますか。」 女の掠があった時代の書簡であるから、胸が悪くなる云・・・ 宮本百合子 「「或る女」についてのノート」
・・・ 幾百年の過去から、恐ろしい伝統、宿命を脱し切れずにいる、所謂為政者等は、彼等の人間的真情の枯渇に、何かの弁明を見出すかもしれない。けれども、私共、平の人間、真心を以て人間の生活、真の人生と云うものを掴握しようとする者が、互に生きている・・・ 宮本百合子 「アワァビット」
・・・ちっとも語調に真情がない、―― 軈て発車した。 私は眠い。一昨日那須温泉から帰って来、昨日一日買いものその他に歩き廻って又戻って行こうとしているのだから。それに窓外の風景もまだ平凡だ。僅かとろりとした時、隣りの婆さんが、後の男に呼び・・・ 宮本百合子 「一隅」
・・・沢山酒ものむし、盆躍りは少し夢中になり過ぎるが、勇吉の身上の半分はもち論このおしまのかせぎで出来たのであった。 段々暮し向の工合はよくなり、夫婦で骨休めに温泉などへ出かけるようには成ったが、勇吉は子持たずであった。二人はそれをさびしいと・・・ 宮本百合子 「田舎風なヒューモレスク」
・・・ 幸福な境遇にあるものと、不幸な身上のものと、 よく斯うした友達同志は、はなれ易いものであると云うけれ共、不幸な人は幸福に暮す友からはなれられても幸福なものは不幸な友を見すてる事は出来るものではない。 よし見すてたとしても心をせ・・・ 宮本百合子 「M子」
・・・自分の行動、感情のいろいろを、ますます自分にはっきりした責任あるものとさせながら、そのような自分の行動、感情の明暗にかかわってきている社会的なものを見て、ひとの生きてゆく有様にも一層深い真情にふれた理解と興味とを抱き得るように成長してゆくこ・・・ 宮本百合子 「女の自分」
・・・自分たち若いものの活溌な真情にとって、人間評価のよりどころとは思えないような外面的なまたは形式上のことを、小心な善良な年長者たちはとやかく云う。けれどもねえ、そればかりじゃあないわねえ、その心だと思う。 ところが、いざ自分のその心の面に・・・ 宮本百合子 「女の歴史」
・・・ 一幕目で、朋輩の饒舌に仲間入りもせず、裏からお絹の舞台を一心に見ているところ、お絹が病気になってから、芝居の端にも、心は病床の主人にひかれている素振りが見え、真情に迫った。 ただ、一幕目で、お絹が舞台で倒れて担がれて来た時、無目的・・・ 宮本百合子 「気むずかしやの見物」
・・・第十二条に、「凡そ人は法の下に平等にして、人種、信条、性別、社会的地位、又は門地に依り政治的、経済的、社会的関係に於て差別をうくることなきこと」と明記されている。一方、人であって他の動物ではない天皇というものが、全く特殊な立場に固定され、そ・・・ 宮本百合子 「現実の必要」
・・・ごく曲線的な薄田の演技は、本間教子のどちらかというと直線的なしかも十分ふくらみのあるつよい芸と調和して生かされているので、友代が、あれだけの真情を流露させる力をもたなかったら、おそらくあの芝居全体が、ひどくこしらえもののようにあらわれ、久作・・・ 宮本百合子 「「建設の明暗」の印象」
出典:青空文庫