・・・媼が、女の両脚を餅のように下へ引くとな、腹が、ふわりと動いて胴がしんなりと伸び申したなす。「観音様の前だ、旦那、許さっせえ。」 御廚子の菩薩は、ちらちらと蝋燭の灯に瞬きたまう。 ――茫然として、銑吉は聞いていた―― 血は、と・・・ 泉鏡花 「神鷺之巻」
・・・ 浪子夫人はすっと空気草履を穿いたまま飛び乗って、そろりそろりと揺がし始めた。しんなりした撫肩の、小柄なきゃしゃな身体を斜にひねるようにして、舞踊か何かででも鍛えあげたようなキリリとした恰好して、だんだん強く強く揺り動かして行った。おお・・・ 葛西善蔵 「遊動円木」
・・・始め体の上にしんなりと被った紫の君の衣は藻のなびきにういてみどりの藻の上をうす紅の衣がただよって居る、その絵のような又とないものあわれな様子を想像しながら、「美くしい人にふさわしい涙の多いは果ない最後であった、けれ共今更その骸をさらすの・・・ 宮本百合子 「錦木」
出典:青空文庫