・・・地震だなと思うと、すぐにその初期微動の長さの秒数を数えたり、主要動が始まればその方向や週期や振幅を出来るだけ確実に認識しようとする努力が先に立つ。そうしてそれをやっている間に同時にその地震の強弱程度が直観的にかなり明瞭に感知されるから、たい・・・ 寺田寅彦 「家庭の人へ」
・・・特別な設計をした振動台の上に固定された椅子に被試験者を腰掛けさせ、そうしてその台にある一定週期の振動を与えながらその振幅をいろいろに増減する。そうしてちょうど振動感覚の限界に相当する振幅を測定する。次には週期を変えて、また同じ事をする。そう・・・ 寺田寅彦 「空想日録」
・・・さらにまたその平均水準の上下に昇降する週期的変化の「振幅」がやはり人によって色々の差があり、ある人は春秋の差がそれほど大きくないのに、ある人はそれが割合に大きいという風な変異があるものとする。 数式で書き現わすと、この問題の分泌量Hがざ・・・ 寺田寅彦 「五月の唯物観」
・・・ 音についても同様な限界がある、振動数二三十以下あるいは一二万以上の音波はもはや音として聞く事はできぬ。振幅が一定の限度以下でも同様である。また振動数の少しぐらい違った音の高低の区別は到底わからぬものである。 触感によって温度や重量・・・ 寺田寅彦 「物理学と感覚」
・・・テンポにもエキスプレションにも少なくも理論的には相当な振幅はあった。ただ惜しいことには至芸にのみ望み得られる強い衝動が欠けていた。アメリカン・レビューにはそういう古典的な意味での音楽などはない代りに、オリンピックのグラウンドや拳闘のリンクに・・・ 寺田寅彦 「マーカス・ショーとレビュー式教育」
・・・皇室を民の心腹に打込むのも、かような機会はまたと得られぬ。しかるに彼ら閣臣の輩は事前にその企を萌すに由なからしむるほどの遠見と憂国の誠もなく、事後に局面を急転せしむる機智親切もなく、いわば自身で仕立てた不孝の子二十四名を荒れ出すが最後得たり・・・ 徳冨蘆花 「謀叛論(草稿)」
・・・の後幾星霜を経て、大正六、七年の頃、わたくしは明治時代の小説を批評しようと思って硯友社作家の諸作を通覧して見たことがあったが、その時分の感想では露伴先生の『らんげんちょうご』と一葉女史の諸作とに最深く心服した。緑雨の小説随筆はこれを再読した・・・ 永井荷風 「正宗谷崎両氏の批評に答う」
・・・御前は朝寝坊だ、朝寝坊だからむやみに食うのだと判断されては誰も心服するものはない。枡を持ち出して、反物の尺を取ってやるから、さあ持って来いと号令を下したって誰も号令に応ずるものはありません。寒暖計を眺めて、どうもあの山の高さはよほどあるよと・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・にて、郷里に正当の妻を遺し、東京に来りて更らに第二の妻と結婚して、所謂一妻一妾は扨置き、二妻数妾の滅茶苦茶なれば、子供の厳父に於ける、唯その厳重なる命令に恐入り、何事に就ても唯々諾々するのみ、曾て之に心服する者なし。歳月の間に其子供等は小学・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・インガに対してだって、心服なぞはしていない。女の工場管理者に心服なんかするのは労働者の男の恥だ、そう思っているのであった。 夜、工場クラブで集会が終ったところだ。休憩室へみんながぞろぞろとあふれ出し、或る者は隅のテーブルで茶を飲みはじめ・・・ 宮本百合子 「「インガ」」
出典:青空文庫