・・・「一体文章の目的は何である乎。真理を発揮するのが文章の目的乎、人生を説明するのが文章の目的乎、この問題が決しない中は将来の文章を論ずる事は出来ない。この問題が定まれば乃ちその目的を達するに最も近い最も適する文章が自ずから将来の文体となるので・・・ 内田魯庵 「二葉亭余談」
・・・十四章・馬可は是猶太思想の遺物なりと称して、之を以てイエスの熱心を賞揚すると同時に彼の思想の未だ猶太思想の旧套を脱卻する能わざりしを憐む、彼等は神の愛を説く、其怒を言わない、「それ神の震怒は不義をもて真理を抑うる人々に向って天より顕わる」と・・・ 内村鑑三 「聖書の読方」
・・・このことにかんしましてはマハン大佐もいまだ真理を語りません、アダム・スミス、J・S・ミルもいまだ真理を語りません。このことにかんして真理を語ったものはやはり旧い『聖書』であります。もし芥種のごとき信仰あらば、この山に移りてここよりか・・・ 内村鑑三 「デンマルク国の話」
・・・こうした悲情な物理力に対して、また狂暴なる野蛮力に対して、互に戦うことに於て、いかなる正義が得られ、いかなる真理の裁断が下され得るかということであります。 正義のために殉じ、真理のために、一身を捧ぐることは、もとより、人類の向上にとって・・・ 小川未明 「男の子を見るたびに「戦争」について考えます」
・・・たとえば、人間に共通した真理はある。理想はある。感情はある。けれど、それのみの世界というものは、現実に於てあり得ない。大衆といい、民衆といい、抽象的に、いかように人間を考えらるゝことはあっても、実際に於ける、大衆の生活、民衆の生活は、全く個・・・ 小川未明 「彼等流浪す」
・・・芸術は職能として、人生の複雑なる心理、環境と生活、社会と個人等を描くにある。体質に於て同じからざる人間は、同じからざる考えを抱く。また生活層によって、喜怒哀楽を異にする。それ等を、公平によって、書くことは不可能なことである。 都市労働者・・・ 小川未明 「純情主義を想う」
・・・このためには、その作者は、自から子供となり、子供の時代の人となって、殆ど児童と同一の感情と心理と理解をこの自然に対して持たなければならない。この点は、成人を相手とする読物以上に骨の折れることであって、技巧とか、単なる経験有無の問題でなく天分・・・ 小川未明 「新童話論」
・・・大阪弁は、独自的に一人で喋っているのを聴いていると案外つまらないが、二人乃至三人の会話のやりとりになると、感覚的に心理的に飛躍して行く面白さが急に発揮されるのは、私たちが日常経験している通りである。 谷崎氏の「細雪」は大阪弁の美しさを文・・・ 織田作之助 「大阪の可能性」
・・・な場合は、効能が現われるという信念なり期待なりを持っていると、つい相手の何でもない素振りが自分に惚れ出した証拠だと錯覚して、そのため自分の方でそれにひきつられてしまうのではあるまいかと、私はその効能に心理的根拠を与えたいのである。 とこ・・・ 織田作之助 「大阪発見」
・・・議論する時は、声の大きい方が勝ちだというのは一応の真理だが、私は一言も喋らずに黙っている方が勝つということを最近発見した。口は喋るためのみについているのではあるまい。議論している間、欠伸ばかししているか、煙草ばかしふかしておれば、相手は兜を・・・ 織田作之助 「中毒」
出典:青空文庫