・・・このアウシュコルンというのはノルマン地方の人にまがいなき経済家で、何によらず途に落ちているものはことごとく拾って置けば必ず何かの用に立つという考えをもっていた。そこでかれは俯んだ――もっともかねてリュウマチスに悩んでいるから、やっとの思いで・・・ 著:モーパッサン ギ・ド 訳:国木田独歩 「糸くず」
・・・一旦人に知られてから、役の方が地方勤めになったり何かして、死んだもののようにせられて、頭が禿げ掛かった後に東京へ戻されて、文学者として復活している。手数の掛かった履歴である。 木村が文芸欄を読んで不公平を感ずるのが、自利的であって、毀ら・・・ 森鴎外 「あそび」
・・・その地方の細かい双方の話題が暫く高田と梶とを捨てて賑やかになっていくうちに、とうとう栖方は自分のことを、田舎言葉まる出しで、「おれのう。」と梶の妻に云い出したりした。「もうすぐ空襲が始るそうですが、恐いですわね。」と梶の妻が云うと、「一・・・ 横光利一 「微笑」
・・・ フロベニウスは一九〇六年、その第一回の探検旅行の際には、なお、コンゴーのカッサイ・サンクル地方で、カピタンが描いたと同じような村々を見た。そこの街道は何マイルも続いて両側に四重の棕櫚の並み木を持っていた。そこの小家はいずれも惚れ惚れす・・・ 和辻哲郎 「アフリカの文化」
出典:青空文庫