・・・ 女の社会生活の進展は非常なものである。事変第三周年を迎える日本で、社会的な活動にしたがっている若い婦人たちの数だけでもおびただしいものである。社会的活動への婦人の進出はめざましいし、その必要の意味も、個人的に社会的に加重されてきている・・・ 宮本百合子 「異性の間の友情」
・・・私小説、身辺小説からよりひろい客観的な社会性のある小説への要求が起った時代、ひきつづく事変によって変化した世相が文学のその課題の解決を歪めてずるりずるりと生産文学へひきずりこんだ。それと同様に、一応野望的な作家の心に湧いたより活溌な、より広・・・ 宮本百合子 「おのずから低きに」
○ 支那事変がはじまって五年、大東亜戦争がはじまって満一ヵ年と十ヵ月経って秋も深くなった。 燃料がどこの家でも不如意になって来ていて、風呂たきは注意ぶかい一家の行事の一つとなった。 いろいろのも・・・ 宮本百合子 「折たく柴」
・・・翌六年満州事変が始ってから、あらゆる婦人参政権獲得に関する運動は、軍事目的のために圧倒され、婦選案などは議会にとり上げられさえもしなくなって来た。その頃から、本年八月迄、十四年の間、日本の婦人運動は辛うじて母子保護法を通過させたのみで、炭鉱・・・ 宮本百合子 「現実に立って」
・・・ 事変以来、様々の勤労の場面に小学校の卒業生の求められている勢は殆どすさまじいばかりで、三月末の日曜日、東京の各駅には地方から先生に引率された「産業豆戦士」が、行李だの鞄だのを手に手に提げて、無言の裡に駭きの目を瞠りながら続々と到着して・・・ 宮本百合子 「国民学校への過程」
・・・ 日支事変がはじまって暫くすると、若い人々の生活にはいろいろ新しい問題がおこって来た。そのなかに、結婚のことがあった。これから結婚しようとしている人、もうじき結婚をするような運びになっていた人、或いはもう婚約がある人々、そういう人たちが・・・ 宮本百合子 「これから結婚する人の心持」
・・・ 事変以来、日本の文学の姿は実に複雑となって来ている。例えば日露戦争の時代、藤村の傑作の一つである「破戒」さえ出版出来なかったような有様に比べて、今日の小説の隆盛はどうであろう。農民文学懇話会、大陸文学懇話会、生産文学、都会文学懇話会と・・・ 宮本百合子 「今日の文学と文学賞」
・・・ 既に知られているとおり、日本の一般的な社会情勢は昭和六年の秋、満州事変というものが起ってから万般非常に急速な変化を生じた。過去十年に亙って日本の民衆生活の歴史に深い意義をもって来た組織は根本的にこわれたし、プロレタリア文学運動も、昭和・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・ 二 満州事変は昭和六年に起った。この事件を契機として日本では社会生活一般が一転廻した。昭和七年春、プロレタリア文学運動が自由を失って後、同八年運動としての形を全く失うに到った前後は、日本文学全般が一種異様・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・ 教員の生活保証 事変以来、小学教員の不足と、その不足を至急に補うことから生じる質の低下とは心ある者を考えさせていたが、偶小学校教員の万引横領事件が発覚したということである。 これは勿論最も不幸な例外であろ・・・ 宮本百合子 「女性週評」
出典:青空文庫