・・・彼はその宣言の中に人々間の精神交渉を根柢的に打ち崩したものは実にブルジョア文化を醸成した資本主義の経済生活だと断言している。そしてかかる経済生活を打却することによってのみ、正しい文化すなわち人間の交渉が精神的に成り立ちうる世界を成就するだろ・・・ 有島武郎 「想片」
・・・露都へ行く前から露国の内政や社会の状勢については絶えず相応に研究して露国の暗流に良く通じていたが、露西亜の官民の断えざる衝突に対して当該政治家の手腕器度を称揚する事はあっても革命党に対してはトンと同感が稀く、渠らは空想にばかり俘われて夢遊病・・・ 内田魯庵 「二葉亭追録」
・・・官僚が先へ立って突飛な急進の空気を醸成して民間から反対されたというは滅多に聞かない話であって、伊井公侯の欧化政策は平和的ボリシェウィズムであった。それから比べると今日はあんまり平凡過ぎる。官僚も民間も皆老衰してしまった。政治界でも実業界でも・・・ 内田魯庵 「四十年前」
私達は、この社会生活にまつわる不義な事実、不正な事柄、その他、人間相互の関係によって醸成されつゝある詐欺、利欲的闘争、殆んど枚挙にいとまない程の醜悪なる事実を見るにつけ、これに堪えない思いを抱くのであるが、それがために、果して人間その・・・ 小川未明 「人間否定か社会肯定か」
・・・それと、もうひとつこれもおれの智慧だが、同じ薬に上製と特製の二種類を設けたことが、非常に効果的だった。どうせ、中身はたいして変らぬのだが、特製といえば、なにか治りがはやいように思って、べらぼうに高価いのに、いや、高価いだけに、一層売れた。知・・・ 織田作之助 「勧善懲悪」
・・・今日の状勢において、これはレディの延長と見なければならぬ。卒業後の結婚の物質的基礎を考えるとき、夫婦の「共稼ぎ」はますます普通のこととなり行く形勢にある。のみならず職業婦人には溌剌とした知性と、感覚的新鮮さとを持った女性がふえつつある。古き・・・ 倉田百三 「学生と生活」
・・・そして「今日以後永く他宗折伏を停めるならば、城西に愛染堂を建て、荘田千町を付けて衣鉢の資に充て、以て国家安泰、蒙古調伏の祈祷を願ひたいが、如何」とさそうた。このとき日蓮は厳然として、「国家の安泰、蒙古調伏を祈らんと欲するならば、邪法を禁ずべ・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
・・・そして見た状勢を、馳け足で、うしろへ引っかえして報告した。報告がすむと、また前に出て行くことを命じられた。雪は深く、そしてまぶしかった。二人は常に、前方と左右とに眼を配って行かなければならなかった。報告に、息せき息せき引っかえすたびに、中隊・・・ 黒島伝治 「渦巻ける烏の群」
・・・が、戦争が起ると、必ず帝国主義ブルジョアジーを代表する政府にとっても、危険な状勢が発生して来る。労働者、農民大衆の××に対する政府の不安は増大して来る。例えばロシアに於ては、日露戦争の後に千九百五年の××が起り、欧洲大戦の終りに近く、千九百・・・ 黒島伝治 「反戦文学論」
・・・「一体、どういう状勢なんですか?」俺は、ワクワクしていた。「そんなこと、訊ねなくッてよろしい! 命令通りすればいいんだ!」 俺のあとから、七十人位やって来た。みな、銃と剣と弾薬を持った。そこで防備は、どこだと思う? 古城子の露天・・・ 黒島伝治 「防備隊」
出典:青空文庫