・・・頽趣味に絶対の芸術的価値と威信とを附与して、聊か得意の感をなし、荒みきった生涯の、せめてもの慰藉にしようと試みるのであったが、しかし何となくその身の行末空恐しく、ああ人間もこうなってはもうおしまいだ。滋養に富んだ牛肉とお行儀のいい鯛の塩焼を・・・ 永井荷風 「妾宅」
・・・ただし飲酒は一大悪事、士君子たる者の禁ずべきものなれば、その入費を用意せざるはもちろんなれども、魚肉を喰らわざれば、人身滋養の趣旨にもとり、生涯の患をのこすことあるゆえ、おりおりは魚類獣肉を用いたきものなり。一ヶ月六両にては、とても肉食の沙・・・ 福沢諭吉 「慶応義塾新議」
・・・又食物も気を付けて無害なる滋養品を与うるは言うまでもなきことながら、食物一方に依頼して子供を育てんとするは是亦心得違なり。如何に食物を良くするも、其食物に相応する丈けの体動なくしては、食物こそ却て発育の害なれ。田舎の小民の子が粗食大食勝手次・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
・・・凡そ、食物の中で、滋養に富みそしておいしく、また見掛けも大へん立派なものは鶏です。鶏は実際食物中の王と呼ばれる通りです。今鶏の肉の成分の分析表をあげましょう。みなさん帳面へ書いて下さい。 蛋白質は十八ポイント五パアセント、脂肪は九ポイン・・・ 宮沢賢治 「茨海小学校」
・・・やっぱりあたり前の人間には肉類は食料として滋養も多く美味である。ビジテリアン諸氏が折角菜食を実行し又宣伝するのを見た処で感服はしても容易に真似はしない。則ち肉類の需要が減ずるものでもなし又私たちの組合がこわれたり会社が破産したりするものでは・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・トルストイとも比べ、この二人からは何という滋養の吸いとれることでしょう。トルストイが若かったゴーリキイのことを、「頭はわからない。ひどく混雑している、が人間として非常に知慧がある、フム」と云ったことは興味あります。二人はなかなか噛みでがあり・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・古典を現代の滋養とするために何より大事なのは、より広くより深く歴史の動向に沿うて、社会生活の足あととしての古典を含味・批判・摂取することである。バルザックに還れと叫ぶ人々が、バルザックへ戻る前に既にそれをかみこなす自分らの歯を我から不要のも・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・われわれは、丈夫な頸骨と眼力とをもって、すべての古典作家から滋養をとろうとするのである。が、そのやりかたは、古典作家、たとえばドストイェフスキーなどが癲癇という独特な病気をもちながら、彼の生きた時代のロシアの歴史の制約性と、自身の限界性によ・・・ 宮本百合子 「新年号の『文学評論』その他」
・・・自ら地面を破って現れる迄、私は滋養にとんだ沈黙で二葉を包んでおこう。 異性の友情も、私は微妙な陰翳のあるまま朗らかに肯定し暢々保って行きたい。けれども、むずかしいのは私の根性が思う通り垢抜けてくれないことだ。〔一九二四年六月〕・・・ 宮本百合子 「大切な芽」
・・・学校の中に、学生や先生のために、便利で健康的な食堂が出来ていて、廉価に滋養のあるランチが得られます。食後、暫く構内の散歩をし、誘い合って帰宅する時間まで、三時間なり四時間なり又研究を続けると云う訳なのです。 両人に仕事のある日、夕飯は、・・・ 宮本百合子 「男女交際より家庭生活へ」
出典:青空文庫