・・・そのサーニが、臓品分配のことから刃傷沙汰を起し、半殺しの目にあってシベリアの雪の中に倒れていたところを、その地元の「嘗て浮浪児たりし人々のコンムーナ」すなわち少年労働訓練所に救護された。サーニが到頭、自身を卓抜な青年労働者にたたき上げる迄の・・・ 宮本百合子 「作品のテーマと人生のテーマ」
・・・首を斬られる時なぞも、尋常に斬られる。女は尋常に服従したそうだ。無論小川君の好嫖致な所も、女の諦念を容易ならしめたには相違ないさ。そこで女の服従したのは好いが、小川君は自分の顔を見覚えられたのがこわくなったのだね。」ここまで話して、主人は小・・・ 森鴎外 「鼠坂」
・・・五百万人の狂人の群れが、あるいは今一斉にこうして笑っているのかしれない。尋常ではない声だった。「あははははは……」 長く尾をひくこの笑い声を、梶は自分もしばらく胸中にえがいてみていた。すると、しだいにあはははがげらげらに変って来て、・・・ 横光利一 「微笑」
・・・頸、肩、腕なども尋常ではない。そこで彼女は在来のあらゆる演劇術を投げ捨てて、何事を現わすにも新しい方法を取った。 元来芸術家という者はその人に独特の色があるとともに一般的な性質がなければならない。そして一般的な所は伝統に従って表現し、独・・・ 和辻哲郎 「エレオノラ・デュウゼ」
出典:青空文庫