・・・ すると、また、心の奥から、国府津に送る金はどうすると尋問し出す。これが最もさし迫った任務である。しかし、それもまた、僕には、残忍なほど明確な決心があった。 それがために、しかしわが家ながら、他家のごとく窮屈に思われ、夏の夜をうちわ・・・ 岩野泡鳴 「耽溺」
・・・跡から取調べたり、周囲の人を訊問して見たりすると、女房は檻房に入れられてから、絶食して死んだのであった。渡された食物に手を付けなかったり、また無理に食わせられてはならぬと思って、人の見る前では呑み込んで、直ぐそれを吐き出したこともあったらし・・・ 著:オイレンベルクヘルベルト 訳:森鴎外 「女の決闘」
・・・その時中京商業の大宮校長と知り合った、大宮校長は検事の訊問に答えて次のように陳述している。「……私が最初にあの女に会うたのは昨年の四月の末、覚王山の葉桜を見に行き、『寿』という料亭に上った時です。あの女はあそこの女中だったのです。その時・・・ 織田作之助 「世相」
・・・何か訊問するんだな、何をきかれたって、疑わしいことがあるもんか! 彼は心かまえた。曹長は露西亜語は、どれくらい勉強したかと訊ねた。態度に肩を怒らしたところがなくて砕けていた。「西伯利亜へ来てからですから、ほんの僅かです。」 云いなが・・・ 黒島伝治 「穴」
・・・一日、男を呼び出して、訊問した。検事は、机の上の医師の診断書に眼を落しながら、「君は、肺がわるいのだね?」 男は、突然、咳にむせかえった。こんこんこん、と三つはげしく咳をしたが、これは、ほんとうの咳であった。けれども、それから更に、・・・ 太宰治 「あさましきもの」
・・・跡から取調べたり、周囲の人を訊問して見たりすると、女房は檻房に入れられてから、絶食して死んだのであった。渡された食物を食わぬと思われたり、又無理に食わせられたりすまいと思って、人の見る前では呑み込んで、直ぐそれを吐き出したこともあったらしい・・・ 太宰治 「女の決闘」
・・・ひとりの奉行は、一策として、法廷のうしろの障子の蔭にふとった阿蘭陀人をひそませて置いて、シロオテを訊問してみた。ほかの奉行たちも、これをいい思いつきであるとして期待した。さて、奉行とシロオテとは、わけの判らぬ問答をはじめた。シロオテは、いか・・・ 太宰治 「地球図」
・・・巡査が尋問する。人だかりがする。通りかかった私は立ち止まって耳を立てる。しかし言葉はほとんど聞き取れない。ただ人々の態度とおりおり聞こえる単語や、間投詞でおよその事件の推移を臆測し、そうして自分の頭の中の銀幕に自製のトーキー「東京の屋根の下・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・雨や風や地震でさえ自由に制御することのできない人間の力では、この人文的自然現象をどうすることもできないのである。この狂風が自分で自分の勢力を消し尽くした後に自然になぎ和らいで、人世を住みよくする駘蕩の春風に変わる日の来るのを待つよりほかはな・・・ 寺田寅彦 「ジャーナリズム雑感」
・・・ 次には原始人類の生活状態から人文の発達の歴史をかなり詳しく論じている。これらの所説を現在学者の所説と比較してみてもおそらく根本的にはいくらも違わないのではないかと思われる。たとえば火の発明の記事は現に私の机上にある科学者の火に関する著・・・ 寺田寅彦 「ルクレチウスと科学」
出典:青空文庫