・・・ ペンクは名実共にゲハイムラートであって、時々カイザーから呼立てられてドイツの領土国策の枢機に参与していたようである。今日はカイザーに呼ばれているからと云ったような言葉を何遍も聞いたような記憶がある。 いつか海洋博物館での通俗講演会・・・ 寺田寅彦 「ベルリン大学(1909-1910)」
・・・があれは生活上別段必要のある場所にある訳でもなければまたそれほど大切な器械でもない、まあ物数奇である。ただ上ったり下ったりするだけである。疑もなく道楽心の発現で、好奇心兼広告欲も手伝っているかも知れないが、まあ活計向とは関係の少ないものです・・・ 夏目漱石 「現代日本の開化」
・・・「そんな困難をして飯を食ってるのは情ない訳だ、君が特別に数奇なものが無いから困難なんだよ。二個以上の物体を同等の程度で好悪するときは決断力の上に遅鈍なる影響を与えるのが原則だ」とまた分り切った事をわざわざむずかしくしてしまう。「味噌・・・ 夏目漱石 「琴のそら音」
・・・ 西洋の物数奇がしきりに日本の美術を云々する。しかしこれは千人のうちの一人で、あくまでも物数奇の説だと心得て聞かなければならない。大体の上からいうと、そういう物数奇もやはり西洋の方が日本より偉いと思っているのだろう。余も残念ながらそう考・・・ 夏目漱石 「『東洋美術図譜』」
・・・た者、没分暁漢あるいは門外漢になると知らぬ事を知らないですましているのが至当であり、また本人もそのつもりで平気でいるのでしょうが、どうも処世上の便宜からそう無頓着でいにくくなる場合があるのと、一つは物数奇にせよ問題の要点だけは胸に畳み込んで・・・ 夏目漱石 「中味と形式」
・・・最後に、なぜ私がここにこうやって出て来て、しきりに口を動かしているかと云えば、これは酔狂や物数奇で飛出して来たと思われては少し迷惑であります。そこにはそれ相当な因縁、すなわち先刻申上げた大村君の鄭重なる御依頼とか、私の安受合とか、受合ったあ・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・大変着物に凝っている人たちが、昨今はそれらを又新しい工夫の条件にとりいれて違った形での数奇を示しているのや、それとは全く反対に、衣服は肉体をつつむ袋なりとでもいうように、何でもモンペの観念にひきつけてばかり考案されている単調さも、私たちの生・・・ 宮本百合子 「働くために」
出典:青空文庫