・・・僕自身へ巣くう生半可な態度は、おそらくいつまでもつづくことと思われます。僕の健康は、人に思われてるほど、わるくはないと思うけれども、何事にも、本気になれない。二三日、何事かへ本気になったならば、僕自身をほろぼしてしまいそうでならない。本気に・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・要するに教育事業を救うの道はただ一語で「もっと眼に浮ぶようにする」という事である。出来る限りは知識が体験がにならねばならない。この根本方針は未来の学校改革に徹底させるべきものである。」 大学あたりの高等教育についてはあまり立入った話はし・・・ 寺田寅彦 「アインシュタインの教育観」
・・・勅使接待の能楽を舞台背景と番組書だけで見せたり、切腹の場を辞世の歌をかいた色紙に落ちる一片の桜の花弁で代表させたりするのは多少月並みではあるがともかくも日本人らしい象徴的な取り扱い方で、あくどい芝居を救うために有効であると思われた。しかしい・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(3[#「3」はローマ数字、1-13-23])」
・・・そして疾病と老耄とはかえって人生の苦を救う方便だと思っている。自殺の勇断なき者を救う道はこの二者より外はない。老と病とは人生に倦みつかれた卑怯者を徐々に死の門に至らしめる平坦なる道であろう。天地自然の理法は頗妙である。コノ稿ハ昭和七・・・ 永井荷風 「正宗谷崎両氏の批評に答う」
・・・ さて自然主義は遠慮なく事実そのままを人の前に暴露し、または描き出すため種々なる欠点を生ずるに至りましたが、これを救うは過去のローマン主義を復興するにあらずして、新ローマン主義ともいうべきものを興すにあろうかと思う。新ローマン主義という・・・ 夏目漱石 「教育と文芸」
・・・新設されべき文芸院が果してこの不振の救済を急務として適当の仕事を遣り出すならば、よし永久の必要はなしとした所で、刻下の困難を救う一時の方便上、文壇に縁の深い我々は折れ合って無理にも賛成の意を表したいが、どうしてそれを仕終せるかの実行問題にな・・・ 夏目漱石 「文芸委員は何をするか」
・・・ 然し救うと云うことが、出来るだろうか? 人を救うためにはが唯一の手段じゃないか、自分の力で捧げ切れない重い物を持ち上げて、再び落した時はそれが愈々壊れることになるのではないか。 だが、何でもかでも、私は遂々女から、十言許り聞くよう・・・ 葉山嘉樹 「淫賣婦」
・・・その細目にいたりては、一年農作の飢饉にあえば、これを救うの術を施し、一時、商況の不景気を見れば、その回復の法をはかり、敵国外患の警を聞けばただちに兵を足し、事、平和に帰すれば、また財政を脩むる等、左顧右視、臨機応変、一日片時も怠慢に附すべか・・・ 福沢諭吉 「政事と教育と分離すべし」
・・・ 我が輩は論者の言を聞き、その憂うるところははなはだもっともなりと思えども、この憂いを救うの方便にいたりては毫も感服すること能わざる者なり。そもそも論者の憂うるところを概言すれば、今の子弟は上を敬せずして不遜なり、漫に政治を談じて軽躁な・・・ 福沢諭吉 「徳育如何」
・・・その食物は豚肉を主としている、釈迦はこの豚肉の為に予め害したる胃腸を全く救うべからざるものにしたらしい。その為にとうとう八十一歳にしてクシナガラという処に寂滅したのである。仏教徒諸君、釈迦を見ならえ、釈迦の行為を模範とせよ。釈迦の相似形とな・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
出典:青空文庫