・・・ 夜着をすっぽり被った中でお君は、妹につけつけ云われ目下に見られてされるままになって居る父親がいたわしく又歯がゆく思われた。 いつか芝居で見た様に小判の重い包で頬をいやと云うほど打って、畳中に黄金の花を咲かせたい気がした。 目の・・・ 宮本百合子 「栄蔵の死」
・・・ 看守は騒ぎをよそに黒い外套を頭からすっぽり引きかぶって、テーブルの上に突っぷしている。 物も云わず拳固で殴りつける音が続けざまにした。暫くしずまったと思うと、「アッ! いけねえ」 とび上るような声が保護室で起った。「仕・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・ 更衣所で、男の着る作業服に着かえ、足先を麻の布でくるんで膝までの長靴をはいた。すっぽり作業帽をかぶって待っていると、自分も作業服にかえてドミトロフ君がやって来た。そして、「ホホー」と思わず笑い出した。私も笑った。というのは私は・・・ 宮本百合子 「ドン・バス炭坑区の「労働宮」」
出典:青空文庫