・・・と解した方がその人の言わんとするところの内容を比較的正確にかつ容易に享入れ得る場合が少くない。 人は、自分が従来服従し来ったところのものに対して或る反抗を起さねばならぬような境地(と私は言いたい。理窟は凡に立到り、そしてその反抗を起した・・・ 石川啄木 「性急な思想」
・・・が、すねたのでも、諷したのでも何でもない、かのおんなの性格の自然に出でた趣向であった。 ……ここに、信也氏のために、きつけの水を汲むべく、屋根の雪の天水桶を志して、環海ビルジングを上りつつある、つぶし餡のお妻が、さてもその後、黄粉か、胡・・・ 泉鏡花 「開扉一妖帖」
・・・ それにつき鴎外の性格の一面を窺うに足る一挿話がある。或る年の『国民新聞』に文壇逸話と題した文壇の楽屋咄が毎日連載されてかなりな呼物となった事があった。蒙求風に類似の逸話を対聯したので、或る日の逸話に鴎外と私と二人を列べて、堅忍不抜精力・・・ 内田魯庵 「鴎外博士の追憶」
・・・かつ天下国家の大問題で充満する頭の中には我々閑人のノンキな空談を容れる余地はなかったろうが、応酬に巧みな政客の常で誰にでも共鳴するかのように調子を合わせるから、イイ気になって知己を得たツモリで愚談を聴いてもらおうとすると、忽ち巧みに受流され・・・ 内田魯庵 「三十年前の島田沼南」
・・・もし初めからアレだけ巻数を重ねる予定があったなら、一輯五冊と正確に定めて十輯十一輯と輯の順番を追って行くはずで、九輯の上だの下だの、更に下の上だの下の下だのと小面倒な細工をしないでも宜かったろうと思う。全部を二分して最初の半分が一輯より八輯・・・ 内田魯庵 「八犬伝談余」
・・・一度死んだ人間を無理に蘇生らしたり、マダ生きてるはずの人間がイツの間にかドコかへ消えてしまったり、一つ人間の性格が何遍も変るのはありがちで、そうしなければ纏まりが附かなくなるからだ。正直に平たく白状さしたなら自分の作った脚色を餅に搗いた経験・・・ 内田魯庵 「八犬伝談余」
・・・ 所謂、空想的社会主義と、科学的社会主義との相違は、単に、その手段、方法の問題たるにとどまらず、其処に、性格の相違あり、また、全く人生に対する、前提の同じからざるによるものがある。 チャイコフスキイ団の如き、謙譲と真実と愛によっての・・・ 小川未明 「純情主義を想う」
・・・私達はそこに、文章の面白味を知り、また個々の性格を知り多元的な生存の特質を知り、さらに人生の何たるかを悟らんとするのであります。 私は、よく、折にふれて空想するのであるが、人生観を持たず、何等信念を有せぬ貴婦人や、金持があったとする。彼・・・ 小川未明 「読むうちに思ったこと」
・・・ 法善寺の性格を一口に説明するのはむずかしい。つまりは、ややこしいお寺なのである。そしてまた「ややこしい」という大阪言葉を説明するのも、非常にややこしい。だから法善寺の性格ほど説明の困難なものはない。 例えば法善寺は千日前にあるのだ・・・ 織田作之助 「大阪発見」
・・・いや、もっと正確を期するなら、一切合財おれが下図を描いたものとすべきだった。 そんな手落ちはあったが、その代りそれに続く一節は、筆者の脚色力はさきの事実の見落しを補って余りあるほど逞しく、筆勢もにわかに鋭い。 ――口に蜜ある者は腹に・・・ 織田作之助 「勧善懲悪」
出典:青空文庫