・・・石田はこれに極めた。比那古のもので、春というのだそうだ。男のような肥後詞を遣って、動作も活溌である。肌に琥珀色の沢があって、筋肉が締まっている。石田は精悍な奴だと思った。 しかし困る事には、いつも茶の竪縞の単物を着ているが、膝の処には二・・・ 森鴎外 「鶏」
・・・が、さて捨てるとなると、その濡れたように生き生きとした花粉の精悍な色のために、捨て処がなくなった。彼は小猫を下げるように百合の花束をさげたまま、うろうろ廊下を廻って空虚の看護婦部屋を覗いてみた。壁に挾まれた柩のような部屋の中にはしどけた帯や・・・ 横光利一 「花園の思想」
・・・それは大体十一月三日の前後で、四、五日の間、その盛観が続いた。特に、夕日が西に傾いて、その赤い光線が樹々の紅葉を照らす時の美しさは、豪華というか、華厳というか、実に大したものだと思った。しかしその年の紅葉がそういうふうに出来がよいということ・・・ 和辻哲郎 「京の四季」
・・・三年前の大患以後、病気つづきで、この年にも『行人』の執筆を一時中絶したほどであったが、一向病人らしくなく、むしろ精悍な体つきに見えた。どこにもすきのない感じであった。漱石の旧友が訪ねて行って、同じようにして迎えられたとき、「いやに威張ってい・・・ 和辻哲郎 「漱石の人物」
出典:青空文庫