・・・工場内には、はじめ、極く日常の出来事に関する感想を壁新聞に投書しているうち、ふと文学研究会へ出席するようになり、今では正規の労働通信員であると同時に、短篇小説や小評論をも書き出しているような若い男女が沢山ある。 婦人部の機関紙『労働婦人・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・笑い草ですが、余り頭が苦しくて昏々と眠るからね、もしかしたらこの頃流行の嗜眠性脳炎ではないかと思って、もしそういう疑いがあれば正気なうちにあなたに手紙を書いて置こうと思ったの。書くと云ったって結局今の私の心持で何も特別なことはないわけですが・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・政府案第十二条は、この五人の委員が「任命後最高裁判所長の面前に於て正規の宣誓書に署名してからでなければその職務を行ってはならない」としている。正規の宣誓書の内容は一般に知らされていない。五人の委員はなにを誓わせられるのだろう。これまで日本の・・・ 宮本百合子 「今日の日本の文化問題」
・・・その作家の人生に通じるテーマを見いだしたとき、その作家の全存在を集中する精気のこった活動としてモティーヴがはっきり把えられ、労作がはじまるのであると思う。 世界観は、鋭く美しい活きた社会とその歴史にたいする眼として紹介されなかった。日本・・・ 宮本百合子 「作家の経験」
・・・殆ど正気と思われない程受動的な、被暗示的な精神状態において表現し、卑俗に云えば、「余りお前が盗んだと云われるもんでそんな気になっちゃった」という工合に扱っている。しかも、それがインテリゲンツィアは現実より理性にたよるからであるというような観・・・ 宮本百合子 「作家のみた科学者の文学的活動」
絶対主義と戦争熱で正気をうしなっていた日本の政府が無条件降伏して、ポツダム宣言を受諾したのはつい一昨昨年の夏のことであった。今日までに、まる三年たつかたたずである。その短い間に日本の民主化の道は、はっきりと三つの段階を経た・・・ 宮本百合子 「三年たった今日」
・・・幾千万の私たち大衆が、つつましく名もない生涯を賭しながら、自身の卑俗さともたたかいながら、日夜生きつつあるその歴史の価値についての理解、その歴史に生起する幾多の華麗ならざる偉大な行動への愛、無力なものがいかに終局において無力ならざるものであ・・・ 宮本百合子 「商売は道によってかしこし」
・・・ピオニェール、コムソモールとしてソヴェト社会生活のうちに育ち、ラブ・セル・コル活動をとおして、文章というものをかきはじめ、やがて一つの物語を綴るようにもなり、正規の文学活動家となった人々である。ソヴェト同盟の社会的達成そのものとして現れ、最・・・ 宮本百合子 「政治と作家の現実」
・・・ 六十何歳かに達した年で、このように精気のある絵をかく女性の粘りというものに、感服し、よろこびを感じたのであった。実物を見られなくて惜しいという気が切にした。 護国寺の紅葉や銀杏の黄色い葉が飽和した秋の末の色を湛えるようになった・・・ 宮本百合子 「「青眉抄」について」
・・・私たちこの精緻な人間が、性器に還元された自我しか自覚する能力がないとしたら、それは病的です。性的交渉にたいして精神の燃焼を知覚しえない男・女のいきさつのなかに、この雄大な二十世紀の実質を要約してしまうことは理性にとって堪えがたい不具です。文・・・ 宮本百合子 「一九四六年の文壇」
出典:青空文庫