・・・水流の場合には一般に流線の広がる時に擾乱が起こるが流線が集約する時にはそれが整斉される、あれと似たことがありはしないかとも考えられる。これらもすべて大胆すぎた想像であるが一つの暗示として付記する。 リヒテンベルグの場合に放電板の裏側にで・・・ 寺田寅彦 「自然界の縞模様」
・・・ 北米のような大陸で、ことに南北の気流の比較的自由な土地はこの現象の生成に都合が好さそうに思われる。いくら米国でもこの天象を禁止し排斥する事は出来ないので、その予報の手がかりを研究しているのである。 我邦におけるこれらの現象の記録は・・・ 寺田寅彦 「凍雨と雨氷」
・・・空中電気というとわかったような顔をする人は多いがしかし雨滴の生成分裂によっていかに電気の分離蓄積が起こり、いかにして放電が起こるかは専門家にもまだよくはわからない。今年のグラスゴーの科学者の大会でシンプソンとウィルソンと二人の学者が・・・ 寺田寅彦 「化け物の進化」
・・・しかしたとえば液体の渦の生成や分布や相互作用については、やはり前述の割れ目などと共通な「固有値」の問題の伏在することが想像され、あるいはまたマトリッキスの概念の導入可能性も考えられる。 またかつて藤原博士が私に話されたように、古来の大家・・・ 寺田寅彦 「物理学圏外の物理的現象」
・・・早起きして顔を洗った自分の頭もせいせいして、勇ましい心は公園の球投げ、樋川の夜ぶりと駆けめぐった。 義ちゃんは立派に大きくなったが、竜舌蘭は今はない。 雷はやんだ。あすは天気らしい。・・・ 寺田寅彦 「竜舌蘭」
・・・という自己流の定義が正しいと仮定すると、日本における上述の気候学的地理学的条件は、まさにかくのごとき週期的変化の生成に最もふさわしいものだといってもたいした不合理な空想ではあるまいかと思うのである。 同じことはいろいろな他の気候的感覚に・・・ 寺田寅彦 「涼味数題」
・・・ 雲の生成に凝縮心核を考えているのは卓見である。そして天外より飛来する粒子の考えなどは、現在の宇宙微塵や太陽からの放射粒子線を連想させる。 次に地震の問題に移って、地殻内部構造に論及するのは今も同じである。ただ彼は地下に空洞の存在を・・・ 寺田寅彦 「ルクレチウスと科学」
・・・鼻は其時から酷くつまってせいせいすることはなくなった。彼は能く唄ったけれど鼻がつまって居る故か竹の筒でも吹くように唯調子もない響を立てるに過ぎない。性来頑健は彼は死ぬ二三年前迄は恐ろしく威勢がよかった。死ぬ迄も依然として身体は丈夫であったけ・・・ 長塚節 「太十と其犬」
・・・不完全なのは、我々の心掛が至らぬからの横着に起因するのだからして、もう少し修養して黒砂糖を白砂糖に精製するような具合に向上しなければならんという考で一生懸命に努力したのである。すなわち昔の人には批判的精神が乏しかった。昔から云い伝えている孝・・・ 夏目漱石 「文芸と道徳」
・・・これを管理してその事を整斉せしむるには、行政の権力を用いて、いわゆる事務家の働に依頼せざるをえず。 学者が政権によりて学問を人に強いんとし、事務家が学問の味を知らずして漫にこれを支配せんとするは、軍人が海陸軍の庶務をかねて、庶務の吏人が・・・ 福沢諭吉 「学問の独立」
出典:青空文庫