・・・ 先ず経済的に独立しなければ、男子の専横から遁れることができない。こう知った女は職業をこの社会に向って要求したのである。 社会は、それらの女子に職業を与えたであろうか。今日、多くの職業婦人の出現は、たしかに与えられつゝあることを証す・・・ 小川未明 「婦人の過去と将来の予期」
・・・』『夷狄だ畜生だ、日本人ならよくきけ、君、君たらずといえども臣もって臣たらざるべからずというのが先王の教えだ、君、臣を使うに礼をもってし臣、君に事うるに忠をもってす、これが孔子の言葉だ、これこそ日の本の国体に適う教えだ、サアこれでも貴様は孟・・・ 国木田独歩 「初恋」
・・・さて先王の運命は何人も知る者がなかった。その死骸がポント・フラクト城より移されて聖ポール寺に着した時、二万の群集は彼の屍を繞ってその骨立せる面影に驚かされた。あるいは云う、八人の刺客がリチャードを取り巻いた時彼は一人の手より斧を奪いて一人を・・・ 夏目漱石 「倫敦塔」
・・・小鳥を飼う等と云う長閑そうなことが、案外不自然な、一方のみの専横を許して居るのではなかろうか。 此等の愛らしい無邪気な鳥どもが、若し私達が餌を忘れれば飢えて死ななければならない運命に置かれて居ると知るのは、いい心持でなかった。 飼わ・・・ 宮本百合子 「餌」
・・・無知、野蛮な専横ぶりを軽蔑した。だけれども、誰にだってその無茶苦茶ぶりがわかりきっている横柄ずくなやりかたに、いまさら楯つくのは大人気ない、という感情は、あのころの日本の一般的な気持であった。どうせあっちは暴力で来ている、馬鹿と気狂いの対手・・・ 宮本百合子 「世紀の「分別」」
・・・その前年、ツルゲーネフに少年時代から沁々農奴生活の悲惨を感じさせた専横な女地主である母親が、外国で日を暮しているツルゲーネフに立腹して送金を拒絶した時、彼を助けて金を出してやったのは、ヴィアルドオ夫人である。 ヴィアルドオ夫人の美と才能・・・ 宮本百合子 「ツルゲーネフの生きかた」
・・・左右には二つ並べて大きく先王と王妃の像を画いた額がかかってその下に火が燃してある。今のストーブとまでには発達しないごく雑な彫刻のある石板で四方をかこんだ窪い所に太い木の株を行儀よくかさねてある、その木と木の間から赤い焔が立ちのぼる。・・・ 宮本百合子 「胚胎(二幕四場)」
・・・さて、ジョン・ハーシーは、マーヴィン将軍の専横によってアダノから追放されたのちのジョボロ少佐の生きかたを明日の作品によってどのように追究してゆくだろうか。「撓まぬ人間の行動」として世界の真実を語ろうとするジャーナリストの仕事を、どう展開して・・・ 宮本百合子 「「ヒロシマ」と「アダノの鐘」について」
・・・日本のすべての心に戦争の恐怖があり、ファシズムの専横と独裁への嫌悪がある。国際事情にふれる機会が少ない上、まだイエスとノーをはっきり区別して社会的発言をする習慣がゆきわたってしまわないうちに、この戦争とファシズム独裁に対する人民の嫌悪感を逆・・・ 宮本百合子 「平和への荷役」
・・・しかしながら、二百五十年間に亙ってロシアの大衆の生活を縛りつけていた封建性は実に深く日常の習慣に滲みこんで、家庭内における父親の専横、主人と雇人との関係の専制的なことは、恐ろしいばかりであった。ゴーリキイの祖父の家の生活は、その息づまるよう・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
出典:青空文庫