・・・となのだから、彼の家のラジオ受信機が、ラジオ屋に見せても、「修繕の仕様が無い」と宣告されたほどに破損して、この二、三年間ただ茶箪笥の上の飾り物になっていて、老母も妻も、この廃物に対して時折、愚痴を言っていたのを思い出し、銀行から出たすぐその・・・ 太宰治 「家庭の幸福」
・・・一人は、死刑の宣告書を持ち、一人は、宝石ちりばめたる毒杯を、一人は短剣の鞘を払って。『何ごとぞ。』アグリパイナは、威厳を失わず、きっと起き直って難詰した。応えは無かった。 宣告書は手交せられた。 ちらと眼をくれ、『このような、死・・・ 太宰治 「古典風」
・・・最も容易に入学できる医者の学校を選んで、その学校へ、二度でも三度でも、入学できるまで受験を続けよ、それが勝治の最善の路だ、理由は言わぬが、あとになって必ず思い当る事がある、と母を通じて勝治に宣告した。これに対して勝治の希望は、あまりにも、か・・・ 太宰治 「花火」
・・・ おれは死刑を宣告せられた。それから法廷を侮辱した科によって、同時に罰金二十マルクに処せられた。「被告の所有者たる襟は没収する限りでないから、一応被告に下げ渡します」と、裁判長が云った。「あの差押えた品を渡せ」と云うや否や、押丁はお・・・ 著:ディモフオシップ 訳:森鴎外 「襟」
・・・ 帰りに沓掛の駅でおりて星野行きの乗合バスの発車を待っている間に乗り組んだ商人が運転手を相手に先刻トラックで老婆がひかれたのを目撃したと言って足の肉と骨とがきれいに離れていたといったようなことをおもしろそうに話していた。バスが発車してま・・・ 寺田寅彦 「あひると猿」
・・・きっと前途に重畳する難関を一つ一つしらみつぶしに枚挙されてそうして自分のせっかく楽しみにしている企図の絶望を宣告されるからである。委細かまわず着手してみると存外指摘された難関は楽に始末がついて、指摘されなかった意外な難点に出会うこともある。・・・ 寺田寅彦 「科学者とあたま」
・・・雪の日のミルクホールで弁護士から今日の判廷の様子を聞かされ、この二十四時間に捜しあてなければ愚鈍なる陪審官達はいよいよ有罪の判断を下すであろうという心細い宣告を下されるのである。天一坊の大岡越前守を想い出させる。 さすがそこは芝居である・・・ 寺田寅彦 「初冬の日記から」
・・・この宣告は自分たちの心を暗くした。そのころはもう一日ほとんど動かずに行儀よくすわっていて、人が呼ぶとまぶしそうな目をしばたたいて呼ぶ人の顔を見た。そうしていつものように返事を鳴こうとするが声が出なかった。 最後の近くなったころ妻がそばへ・・・ 寺田寅彦 「備忘録」
・・・が開く時分に、先刻から場席を留守にしていたお絹が、やっと落ち著いた顔をして、やってきた。「お芳さんがあすこに立っていたから、行って見てきましたの。いい塩梅に平場の前の方を融通してくれたんですよ」「そう。お芳さんも久しく見ないが、どこ・・・ 徳田秋声 「挿話」
・・・死の宣告を受けて法廷を出る時、彼らの或者が「万歳! 万歳!」と叫んだのは、その証拠である。彼らはかくして笑を含んで死んだ。悪僧といわるる内山愚童の死顔は平和であった。かくして十二名の無政府主義者は死んだ。数えがたき無政府主義者の種子は蒔かれ・・・ 徳冨蘆花 「謀叛論(草稿)」
出典:青空文庫