・・・実に不可思議千万なる事相にして、当時或る外人の評に、およそ生あるものはその死に垂んとして抵抗を試みざるはなし、蠢爾たる昆虫が百貫目の鉄槌に撃たるるときにても、なおその足を張て抵抗の状をなすの常なるに、二百七十年の大政府が二、三強藩の兵力に対・・・ 福沢諭吉 「瘠我慢の説」
・・・本義などという者は到底面白きものならねば読むお方にも退屈なれば書く主人にも迷惑千万、結句ない方がましかも知らねど、是も事の順序なれば全く省く訳にもゆかず。因て成るべく端折って記せば暫時の御辛抱を願うになん。 凡そ形あれば茲に意あ・・・ 二葉亭四迷 「小説総論」
・・・今晩はあついおもてなしにあずかりまして千万かたじけなく思います。どういうわけでこんなおもてなしにあずかるのか先刻からしきりに考えているのです。やはりどうもその先頃おたずねにあずかった紫紺についてのようであります。そうしてみると私も本気で考え・・・ 宮沢賢治 「紫紺染について」
・・・ 教室へ入って行って見ると、仕事着を着た男女生徒が、旋盤に向って注意深く作業練習をしているところである。ひろい窓から日光が一杯さしている教室中は森として、機械の音だけが響いている。もう白い髪をした指導者が一人一人の側によって仕事ぶりを親・・・ 宮本百合子 「明るい工場」
・・・「理想的なやりかたは、ひと思いに何千万を殺すか、自殺かだ。」パロット氏「そんなことは出来ない。産児制限と国の工業化が解決の一助だろう」。重ねて鈴木文史朗は「大家族をもっている月給取りは子供の少い上役より月収が多い。これは一面子供多産の奨励の・・・ 宮本百合子 「鬼畜の言葉」
・・・ この高岡という闘士は十一歳の時から硝子工場でちゃんとした寝どこさえ与えられず働き、後旋盤工として働いていたのだそうです。そういう経験をもっていて労働者農民の国ソヴェト同盟の暮しを見たのだから、プロレタリアートの国ソヴェト同盟では、国庫・・・ 宮本百合子 「共産党公判を傍聴して」
・・・二脚のテーブルといくつかの椅子があって、鋳型職場、旋盤からの若者が四五人八時間の働きを終って楽に坐っている。初歩の文芸部員たちは多くの場合詩人である。 ――今日は誰が読むね。 マップからの指導者が、煙草をふかしつつ一同を見渡す。・・・ 宮本百合子 「子供・子供・子供のモスクワ」
・・・世界的諸関係の中に日本をおき、公の観点から洞察し、心から祖国を愛する者ならば、日本の民主化が如何に重大であるか、千万の言葉にまさる重さを理解しなければならない。 政党が、公のものであるならば、自党の得票という私的目的のために、日本人民の・・・ 宮本百合子 「逆立ちの公・私」
・・・ 不思議なんでね千万も種々な動物の居る様な所でなけりゃあ生えない蜜柑なの。 こーんなに太い蛇が居たり大きな鰐が居たり。「どの位の大きさ。「こんな小さいのもこんな大きいのも有るの。 きまって居ないのさ。 だけれどね、・・・ 宮本百合子 「小さい子供」
・・・光君は千万の味方を得たようにその方を向いた。「どうしたんでございましょうね、あんまり御またせ申して居りますこと。ほんとに持って居る自分のねうちよりもよく見せようと思うには仲々手間の入ることでございましょうから」 常盤の君は自分の妹の・・・ 宮本百合子 「錦木」
出典:青空文庫