・・・そして自分に即さず一つの社会的な事実としてこの事を観察すると、私は、日本の現在の階級対立のけわしさや、そのきびしい抑圧の中からも何かの可能性をひき出し、たとえ半歩たりとも具体的に前進しようとする階級の、いよいよ強靭にされる連帯性、積極性の大・・・ 宮本百合子 「新しい一夫一婦」
・・・ョン、ファシズムに抗議する声明書、それらの集団的な抵抗の裏づけとして本当に一人一人が、自分の生活態度の全面でどんな抗議を行っているか、それを明瞭に意識において見なければ、日本の民主化を守り通し、それを前進させるための実力としては足りないとい・・・ 宮本百合子 「新しい抵抗について」
・・・社会形成の推移の過程にあらわれて来ているこの女にとって自然でない女らしさの観念がつみとられ消え去るためには、社会生活そのものが更に数歩の前進を遂げなければならないこと、そしてその中で女の生活の実質上の推進がもたらされなければならないというこ・・・ 宮本百合子 「新しい船出」
・・・歴史が前進しないものなら、過去の天才は文学のテーマをかきつくしてしまえたろう。その人が自分の社会的・階級的人生を発見したからこそ、そこにおこるすべてのことの人間らしい美醜、悲喜の歴史的意味を知り、自分をもある時代の階級的人間の一典型として、・・・ 宮本百合子 「新しい文学の誕生」
・・・時計また二時前進。今度の旅行には時間表が買えなかった。大きい経済地図があるのを鞄から出して見る。モスクワは地図の上で赤ボッチ。自分達はシベリアの野と密林の間を一日一日と遠くへ走っている。 ある駅へ止る。ステーションの建物の入口の上に赤い・・・ 宮本百合子 「新しきシベリアを横切る」
・・・を、過去の作品としてうしろへきつく蹴り去ることで、それを一つの跳躍台として、より急速な、うしろをふりかえることない前進をめざす状態だった。 一九三二年の春から、うちつづく検挙と投獄がはじまった。その期間に作者はしばしば一人の人間、女とし・・・ 宮本百合子 「あとがき(『二つの庭』)」
・・・その間に、日本の社会は幾変転し、大衆の歴史は前進した。その歴史の歩みが、「貧しき人々の群」の作者をも成長させた。日本の文学がその発展として、文学の社会的意義の自覚と階級の観念を理解し摂取した。それが契機となって、わたしのぼんやりとしていた人・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第一巻)」
・・・三十一、二歳だった一人の女として、ある程度文学の仕事に経験を重ねている作家として、中條百合子は、全身全心をうちかけて、「新しい世界」のカーテンをかかげ、その景観を日本のすべての人にわかとうとしている。自分の感動をかくさず、人々も、まともな心・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第九巻)」
・・・ 東京書籍館は、今の上野帝国図書館の前身である。いつ何処だのかは覚えないが、この書籍館時代の図書館の内部の木版画を観たことがある。羽織袴、多分まだ両刀を挾した男達が、驚くべく顴骨の高い眦の怒った顔で小さく右往左往している処に一つ衝立があ・・・ 宮本百合子 「蠹魚」
・・・私の目下はあの地虫が春が来てひとりでに殼を破って地上に抜け出る、あの漸進的な自然の外脱を得たいと思います。 至純な芸術境にあって死身に仕事が出来れば結構ですが、要するに其も質の問題だと思います。エルマンをお聴きでしたか。世の中に一人あっ・・・ 宮本百合子 「女流作家として私は何を求むるか」
出典:青空文庫