・・・この二説は磯氏も注意されたように相互に類似している。これを科学的な目で見ると要するに馬の頭部の近辺に或る異常な光の現象が起こるというふうに解釈される。 次に注意すべきは、この怪異の起こる時の時間的分布である。すなわち「濃州では四月から七・・・ 寺田寅彦 「怪異考」
・・・その気質にはかなり意地の強いところもあるらしく見えたが、それも相互にまだ深い親しみのない私に対する一種の見えと羞恥とから来ているものらしく思われた。彼は眉目形の美しい男だという評判を、私は東京で時々耳にしていた。雪江は深い愛着を彼にもってい・・・ 徳田秋声 「蒼白い月」
・・・そうして過渡期の日本の社会道徳にそむいて、私の歩を相互に進めることなしに、意志の重みをはじめから監督者たる父母に寄せかけた彼の行ないぶりを快く感じた。そこで彼の依頼を引き受けた。 さっそく妻をやって先方へ話をさせてみると、妻は女の母の挨・・・ 夏目漱石 「手紙」
・・・いうのはほかの意味でも何でもない、すなわち自分の力に余りある所、すなわち人よりも自分が一段と抽んでている点に向って人よりも仕事を一倍にして、その一倍の報酬に自分に不足した所を人から自分に仕向けて貰って相互の平均を保ちつつ生活を持続するという・・・ 夏目漱石 「道楽と職業」
・・・それからだんだん議論に花が咲いて壮語四隣を驚かすと云う騒ぎであったそうな。元来この家は神さんの名前でかりている。ところが七年前に少々家賃を滞おらしたのが今日まで祟っていて出る事ができん。しかも彼の財産は早晩家賃のかたに取られるという始末だ。・・・ 夏目漱石 「倫敦消息」
・・・終りに宗祖その人の人格について見ても、かの日蓮上人が意気冲天、他宗を罵倒し、北条氏を目して、小島の主らが云々と壮語せしに比べて、吉水一門の奇禍に連り北国の隅に流されながら、もし我配所に赴かずんば何によりてか辺鄙の群類を化せんといって、法を見・・・ 西田幾多郎 「愚禿親鸞」
・・・従来の慣用語を以ていえば、主観客観の相互限定から起るのである。而してそれは我々の自己が、自己自身によって自己自身を限定するものの自己表現の過程として、真実在の自己表現の一立脚地となるということにほかならない。故に我々の自己は真実在の自己限定・・・ 西田幾多郎 「デカルト哲学について」
・・・その深遠な理由は、思想が人間性の苦悩の底へ、無限に深くもぐりこんで抜けないほどに根を持つて居るのと、多岐多様の複雑した命題が、至るところで相互に矛盾し、争闘し、容易に統一への理解を把握することができないこと等に関聯して居る。ニイチェほどに、・・・ 萩原朔太郎 「ニイチェに就いての雑感」
・・・人と人との交際ということは、所詮相互の自己抑制と、利害の妥協関係の上に成立する。ところで僕のような我がまま者には、自己を抑制することが出来ない上に、利害交換の妥協ということが嫌いなので、結局ひとりで孤独に居る外はないのである。ショーペンハウ・・・ 萩原朔太郎 「僕の孤独癖について」
・・・劃時代的な二つの階級間の闘争が、全市から全日本の相互の階級を総動員して相対峙していたのだ。それは国際階級戦の一つの見本であった。「連れて行ってくれる! ね、父ちゃん。坊やを連れて行って呉れるの。公園に行こうね。お猿さんを見に行こうね。ね・・・ 葉山嘉樹 「生爪を剥ぐ」
出典:青空文庫