・・・その様子が双方とも何となく気まりが悪いというように、また話がしたいが何か遠慮することがあるとでもいうように見受けられた。角町の角をまがりかけた時、芸者の事をきくと、栄子は富士前小学校の同級生で、引手茶屋何々家の娘だと答えたが、その言葉の中に・・・ 永井荷風 「草紅葉」
・・・細君の答に「御申越の借家は二軒共不都合もなき様被存候えば私倫敦へ上り候迄双方共御明け置願度若し又それ迄に取極め候必要相生じ候節は御一存にて如何とも御取計らい被下度候とあった。カーライルは書物の上でこそ自分独りわかったような事をいうが、家をき・・・ 夏目漱石 「カーライル博物館」
・・・あなた方は今私の講演を聴いておいでになる、私は今あなた方を前に置いて何か言っている、双方共にこういう自覚がある。それに御互の心は動いている。働いている。これを意識と云うのであります。この意識の一部分、時に積れば一分間ぐらいのところを絶間なく・・・ 夏目漱石 「現代日本の開化」
・・・婆さんも余から何か聞くのが怖しく、余は婆さんから何か聞くのが怖しいので御互にどうかしたかと問い掛けながら、その返答は両方とも云わずに双方とも暫時睨み合っている。「水が――水が垂れます」これは婆さんの注意である。なるほど充分に雨を含んだ外・・・ 夏目漱石 「琴のそら音」
・・・ただ拘泥せざるを特色とする、人事百端、遭逢纏綿の限りなき波瀾はことごとく喜怒哀楽の種で、その喜怒哀楽は必竟するに拘泥するに足らぬものであるというような筆致が彼らの人生に齎し来る福音である。彼らのかいたものには筋のないものが多い。進水式をかく・・・ 夏目漱石 「写生文」
・・・裏に表に手を尽して吟味に吟味を重ね、双方共に是れならばと決断していよ/\結婚したる上は、家の貧乏などを離縁の口実にす可らざるは、独り女の道のみならず、亦男子の道として守る可き所のものなり。近年の男子中には往々此道を知らず、幼年の時より他人の・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・これをたとえば、飢たる時に物を喰うは同説なれども、一方は早く喰わんといい、一方は徐々に喰わんというが如し。双方ともに理あり。食物の品柄次第にて、にわかにこれを喰いて腹を痛むることあり、養生法においてもっとも戒むるところなれば用心せざるべから・・・ 福沢諭吉 「学者安心論」
・・・輩の祈るところにして、これを要するに、学問をもって政事の針路に干渉せず、政事をもって学問の方向を妨げず、政事と学権と両立して、両ながら、その処を得せしめなば、政を施すにも易く、学を勉むるにも易くして、双方の便利、これより大なるものなかるべし・・・ 福沢諭吉 「学問の独立」
・・・ СССРで集団農業に移ろうとした時、農民及政府双方で一番困難したのは家畜の問題だった。穀類集団農業から集団牧畜へ。これは常に積極的刺戟を加えられている点である。この新聞で見ると牛乳協定は非常に農民の利益を計って改正されている。去年の牛・・・ 宮本百合子 「新しきシベリアを横切る」
・・・新聞の記事だけでは、双方の事実が十分に明らかにされてはいなかったでしょうと思いますが、ああいう事柄について、皆さんはどうお感じになったでしょう。私は、その感想を知りたく思います。まるで自分には関係のないことと見て過たでしょうか。それとも、自・・・ 宮本百合子 「美しく豊な生活へ」
出典:青空文庫