・・・ そして私たちはまっ黒な林を通りぬけて、さっきの柏の疎林を通り古いポラーノの広場につきました。 そこにはいつものはんのきが風にもまれるたびに青くひかっていました。 わたくしどもの影はアセチレンの灯に黒く長くみだれる草の波のなかに・・・ 宮沢賢治 「ポラーノの広場」
・・・ 列車は、婆さんが鼠色のコートにくるまって不機嫌で愚かな何かの怪のように更に遠く辿って行くだろう疎林の小径を右に見て走った。〔一九二七年十二月〕 宮本百合子 「一隅」
・・・彼は美しいものには何ものにも直ちに心を開く自由な旅行者として、たとえば異郷の舗道、停車場の物売り場、肉饅頭、焙鶏、星影、蜜柑、車中の外国人、楡の疎林、平遠蒼茫たる地面、遠山、その陰の淡菫色、日を受けた面の淡薔薇色、というふうに、自分に与えら・・・ 和辻哲郎 「享楽人」
出典:青空文庫