・・・スウーと歯ぜせりをしながら、「天気は極上、大猟でげすぜ、旦那。」「首途に、くそ忌々しい事があるんだ。どうだかなあ。さらけ留めて、一番新地で飲んだろうかと思うんだ。」 六「貴方、ちょっと……お話がございます・・・ 泉鏡花 「鷭狩」
・・・……お待ち下さい……この浦一円は鰯の漁場で、秋十月の半ばからは袋網というのを曳きます、大漁となると、大袈裟ではありません、海岸三里四里の間、ずッと静浦の町中まで、浜一面に鰯を乾します。畝も畑もあったものじゃありません、廂下から土間の竈まわり・・・ 泉鏡花 「半島一奇抄」
・・・専売局自身が倉庫から大量持ち出して、横流しをしてるんですからねえ」 東京の人人はこの記事を読んで驚くだろうが、しかし私は驚かない。私ばかりではない。大阪の人はだれも驚かないだろう。 そしてまた次のことにも驚かない。 最近・・・ 織田作之助 「大阪の憂鬱」
・・・ しかし、これはおかしい程売れず、結果、学校、官庁、団体への大量寄贈でお茶を濁すなど、うわべは体裁よかったが、思えば、醜態だったね。だいいち、褒めるより、けなす方が易しいのでんで、文章からして「真相をあばく」の方が、いくらか下品にしろ、・・・ 織田作之助 「勧善懲悪」
・・・ * * * * この日は猟師が言ったほどの大猟ではなかったがしかし六頭の鹿を獲て、まず大猟の方であった。そして僕のうった鹿が一番大きかった、今井の叔父さんは・・・ 国木田独歩 「鹿狩り」
・・・ 思いもよらない収入のある話と私が言ったのは、この大量生産の結果で、各著作者の所得をなるべく平均にするために、一割二分の約束の印税の中から社預かりの分を差し引いても、およそ二万円あまりの金が私の手にはいるはずであった。細い筆を力に四人の・・・ 島崎藤村 「分配」
・・・そうしてその結果は世にも目ざましき大量殺人事件となって世界の耳口を聳動するであろうことは真に火を見るよりも明らかである。このような実例の小規模なものは従来小さな映画館の火事の場合に記録されている。しかし人数の桁数のちがうデパートであったらは・・・ 寺田寅彦 「火事教育」
・・・それはとにかく、よほど用心しないと、デパートというものは世にも巧妙な大量殺人機械になる恐れが充分にある。燃料を満載してある上に、しかも発火すると同時に出口が人間で閉塞し、その生きた栓が焼かれる仕掛けになっているからである。山火事の場合は居合・・・ 寺田寅彦 「銀座アルプス」
・・・その場合に前述の甲型の人間が多いと、階段や非常口が一時に押し寄せる人波のために閉塞して、大量的殺人現象が発生するのである。 しかし、また一方、この同じ心理がたとえば戦時における祖国愛と敵愾心とによって善導されればそれによって国難を救い戦・・・ 寺田寅彦 「蒸発皿」
・・・万一にも大都市の水道貯水池の堤防でも決壊すれば市民がたちまち日々の飲用水に困るばかりでなく、氾濫する大量の流水の勢力は少なくも数村を微塵になぎ倒し、多数の犠牲者を出すであろう。水電の堰堤が破れても同様な犠牲を生じるばかりか、都市は暗やみにな・・・ 寺田寅彦 「天災と国防」
出典:青空文庫