・・・財産の多寡で個人の価値を秤量するのが一つ。皮膚の色で人種の等級をきめようとするのが一つ。試験の成績やメンタルテストで人材登用のスケールをきめようとするのが一つ。経済関係の見地だけから社会制度を決定しようとするのもその一つであろう。 これ・・・ 寺田寅彦 「猿の顔」
・・・一度男にだまされて、それ以来自棄半分になっているのではないかと思われるところもあったが、然し祝儀の多寡によって手の裏返して世辞をいうような賤しいところは少しもなかったので、カッフェーの給仕女としてはまず品の好い方だと思われた。 以上の観・・・ 永井荷風 「申訳」
・・・よござんすからね、そのお金はお前さんの小遣いにしておおきなさい。多寡が私しなんぞのことですから、お前さんの相談相手にはなれますまいが、出来るだけのことはきッとしますよ。よござんすか。気を落さないようにして下さいよ。またお前さんの小遣いぐらい・・・ 広津柳浪 「今戸心中」
・・・たとえば、各地方に令して就学適齢の人員を調査し、就学者の多寡をかぞえ、人口と就学者との割合を比例し、または諸学校の地位・履歴、その資本の出処・保存の方法を具申せしめ、時としては吏人を地方に派出して諸件を監督せしむる等、すべて学校の管理に関す・・・ 福沢諭吉 「学問の独立」
・・・ 一所の小学校に、筆道師・句読師・算術師、各一人、助教の数は生徒の多寡にしたがって一様ならず、あるいは一人あり、あるいは三人あり。 学校、朝第八時に始り午後第四時に終る。科業は、いろは五十韻より用文章等の手習、九々の数、加減乗除、比・・・ 福沢諭吉 「京都学校の記」
・・・この場合、そのひとの程度ということはもちろん金銭の多寡や地位を意味しているのでないことは明かである。人間成長の内容をさしているのだが、友情についてもそれはいえることだろうと思う。ただ従来、そのひとの程度というとき、個人的な限度で、各人の天質・・・ 宮本百合子 「異性の間の友情」
出典:青空文庫