・・・家内は平気で、「三十分くらいこうしていると、汗がたらたら出てまいります。だんだん効いて来るのです。」「そうかね。」私は、観念した。 けれども、まさか家内のように悟りすまして眼をつぶっていることもできず、膝小僧だいてしゃがんだまま、き・・・ 太宰治 「美少女」
・・・はじめお世辞たらたら書き認めて、さて、金を送って下されと言いだすのは下手なのであった。はじめのたらたらのお世辞がその最後の用事の一言でもって瓦解し、いかにもさもしく汚く見えるものである。それゆえ、勇気を出して少しも早くひと思いに用事にとりか・・・ 太宰治 「ロマネスク」
・・・又驚く間もなく、白紙の上に血がたらたらと落ちた。背後から一刀浴せられたのである。 夜具葛籠の前に置いてあった脇差を、手探りに取ろうとする所へ、もう二の太刀を打ち卸して来る。無意識に右の手を挙げて受ける。手首がばったり切り落された。起ち上・・・ 森鴎外 「護持院原の敵討」
出典:青空文庫