・・・そこの消息を見抜いている×××は、表面やかましく云いながら、実は大目に見のがした。五十銭銀貨を一つ盗んでも禁固を喰う。償勤兵とならなければならない。それが内地に於ける軍人である。軍人は清廉潔白でなければならない。ところが、その約束が、ここで・・・ 黒島伝治 「パルチザン・ウォルコフ」
・・・ 三代目の横井何太郎が、M――鉱業株式会社へ鉱山を売りこみ、自身は、重役になって東京へ去っても、彼等は、ここから動くことができなかった。丁度鉱山と一緒にM――へ売り渡されたものゝ如く。 物価は、鰻のぼりにのぼった。新しい巨大な器械が・・・ 黒島伝治 「土鼠と落盤」
・・・悪い癖だが、無くて七癖というから、まあ大目に見てやるんだね。」まことに師の恩は山よりも高い。「時にどうだ、頭のほうは。」そればかりを気にして居られる。「大丈夫です。現状維持というところです。」「それは、大慶のいたりだ。」しんから、ほ・・・ 太宰治 「佳日」
・・・それが、いまの三代目の店子のために、すっかりマイナスにされてしまった。 いまごろはあの屋根のしたで、寝床にもぐりこみながらゆっくりホープをくゆらしているにちがいない。そうだ。ホープを吸うのだ。金のないわけはない。それでも屋賃を払わないの・・・ 太宰治 「彼は昔の彼ならず」
・・・さんから教わって、書いてみたらいい、柏木の叔父さんは、沢田先生なんかと違って、大学まですすんだ人だから、それは、何と言ったって、たのもしいところがあります、そんなにお金になるんだったら、お父さんだって大目に見てくれますよ、とお台所のあとかた・・・ 太宰治 「千代女」
・・・どうせ映画の予告篇、結果に於いては、宣伝みたいな事になってしまうのだから、出版元も大目に見てくれるにきまっていると思われる、などとれいの小心翼々、おっかなびっくりのあさましい自己弁解をやらかして、さて、とまた鉄仮面をかぶり、ただいまの抜書き・・・ 太宰治 「鉄面皮」
・・・こういう点で細かいくふうをするのがどこか六代目菊五郎の凝り方と似たところがありはしないか。もっとも日本人菊五郎はくふうを隠すことに骨を折りドイツ人ヤニングスはくふうを見せる事をつとめているという相違はあるかもしれない。 心理的にはかなり・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」
・・・九代目X十郎と十一代目X十郎との勧進帳を聞く事も可能であり、同じY五郎の、若い時と晩年との二役を対峙させることも不可能ではなくなる。 もしまた、いろいろな自然の雑音を忠実に記録し放送することができる日が来れば、ほんとうに芸術的な音的モン・・・ 寺田寅彦 「ラジオ・モンタージュ」
・・・ これらの事はその頃A氏の語ったところであるが、その後わたくしは武鑑を調べて、嘉永三年頃に大久保豊後守忠恕という人が幕府の大目附になっていた事を知った。明治八、九年頃までの東京地図には、江戸時代の地図と変りなく、この処に大久保氏の屋敷の・・・ 永井荷風 「深川の散歩」
・・・常磐津浄瑠璃に二代目治助が作とやら鉢の木を夕立の雨やどりにもじりたるものありと知れど未その曲をきく折なきを憾みとせり。 一歳浅草代地河岸に仮住居せし頃の事なり。築地より電車に乗り茅場町へ来かかる折から赫々たる炎天俄にかきくもるよと見る間・・・ 永井荷風 「夕立」
出典:青空文庫