・・・絶対に自分の優越を信じているような子猫は、時々わき見などしながらちょいちょい手を出してからかってみるのである。 困った事にはいつのまにか蜥蜴を捕って食う癖がついた。始めのうちは、捕えたのは必ず畳の上に持って来て、食う前に玩弄するのである・・・ 寺田寅彦 「ねずみと猫」
・・・しばらく見ませんけれど、山やに商売に出ているお友だちがあって、ちょいちょいおいでた。その縁談がうまくゆかないんですの。そんなら逢うてお話してあげなすったらいいでしょうに。お婿さんはどんな方です」「医大の生徒なんだ。どっちがどうだかわから・・・ 徳田秋声 「挿話」
・・・自分の精神の世界の複雑さと、細君の世俗的な心のありようとの相異、甚しい距離をそれなりに認めた上で、ちょいちょい向上のことも云っている。どこまでも教えてやるという態度で。漱石のむきな夫婦げんか、男と女との交渉の見かたとの対比。○ 夜、寿江・・・ 宮本百合子 「寒の梅」
・・・その間にちょいちょい鋭い批評眼らしいものが閃く。あれでもう少し重みと見識が加ったら、相当に話せる女になるだろうと思わせる女であった。その人と、僅かしか入って居ない金入れのちょろまかしとは、愛にとって実に意外な連想であった。意外であり乍ら、而・・・ 宮本百合子 「斯ういう気持」
・・・実際の仕事に関係あることは殆ど書かれていない。ちょいちょい区切って、ところどころ読んで行く分には読める。退屈ではない。然し、農村の集団化とは結びついてはいない。「貧農組合」は農村における集団農場化のために少なからぬ害を与えるが、ため・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・ 話しながら自分はちょいちょい、母親の手提袋を膝にのせて控えている妹の顔に視線をやった。母親との話はすぐとぎれた。すると妹が、「――やせたわね」と眼に力を入れて云って、可愛い生毛の生えた口許にぎごちないような微笑を泛べた。「・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・ この話をしてから、花房は病人をちょいちょい見るようになったのであった。そして翁の満足を贏ち得ることも折々あった。 翁の医学は Hufeland の内科を主としたもので、その頃もう古くなって用立たないことが多かった。そこで翁は新しい・・・ 森鴎外 「カズイスチカ」
・・・「どうもあなたのお書きになるものは少し勝手が違っています。ちょいちょい芝居を御覧になったら好いでしょう」これは親切に言ってくれたのであるが、こっちが却ってその勝手を破壊しようと思っているのだとは、全く気が附いていなかったらしい。僕の試みは試・・・ 森鴎外 「百物語」
・・・奥の間へいろいろな書附けをした箱を一ぱい出し散らかして、その中からお豊さんが、内裏様やら五人囃しやら、一つびとつ取り出して、綿や吉野紙を除けて置き並べていると、妹のお佐代さんがちょいちょい手を出す。「いいからわたしに任せておおき」と、お豊さ・・・ 森鴎外 「安井夫人」
・・・年越の晩には、極まって来ますが、その外の晩にも、冬になるとちょいちょい来て一しょにトッジイを飲んで話して行きます。」「冬になったら、この辺は早く暗くなるだろうね。」「三時半位です。」「早く寝るかね。」「いいえ。随分長く起きて・・・ 著:ランドハンス 訳:森鴎外 「冬の王」
出典:青空文庫