・・・このようにして、白昼帝都のまん中で衆人環視の中に行なわれた殺人事件は不思議にも司直の追求を受けずまた市人の何人もこれをとがむることなしにそのままに忘却の闇に葬られてしまった。実に不可解な現象と言わなければなるまい。 それはとにかく、実に・・・ 寺田寅彦 「火事教育」
・・・は目も耳も指も切り取って、あらゆる外界との出入り口をふさいで、そうして、ただ、生きていることと、考えることとだけで科学を追究し、自然を駆使することができるのではないかという空想さえいだかせられる恐れがある。しかし、それがただの夢であることは・・・ 寺田寅彦 「感覚と科学」
・・・それらの暗示のどれでも追求して行くとほとんど無限な思索の連鎖をたぐり寄せる事ができた。そしてそれらの考えがほとんど天啓ででもあるように強く明らかに、無条件に真であって、しかもいずれもが新しい卓見ででもあるように彼には思われた。新聞の三面記事・・・ 寺田寅彦 「球根」
・・・数学のような論理的な連鎖を追究する場合ですらも、漠然とした予想の霧の中から正しい真を抽出するには、やはりとぎすました解剖刀のねらいすました早わざが必要であろう。居眠りしながら歩いていたのでは国道でも田んぼへ落ちることなしに目的地へは行かれま・・・ 寺田寅彦 「空想日録」
・・・読み方も徹底的で、腑に落ちないところはどこまでも追究しないと気がすまないという風であった。朝は寝坊であったが夜は時には夜半過ぐるまで書斎で仕事をしていたそうである。たまにはラジオで長唄や落語など聴く事もあった。西洋音楽は自分では分らないと云・・・ 寺田寅彦 「工学博士末広恭二君」
・・・彼はそういう考えを書き止めておいては、それを丁寧に保存し整理しては追究して行くそうである。いかにもこの人にふさわしいやり方だと思う。過去の仕事のカタログを製したりするよりは、むしろ未来の仕事の種子の整理に骨折っているらしいのが、常に進取的な・・・ 寺田寅彦 「雑記(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・最新型の器械を使って、最近流行の問題を、流行の方法で研究するのがはたして新しいのか、古い問題を古い器械を使って、しかし新しい独自の見地から伝統を離れた方法で追究するのがはたして古いかわからないのである。 今年物理学上の功績によってノーベ・・・ 寺田寅彦 「時事雑感」
・・・こういう試みは、もっともっといろいろの方面に追求されるべきはずのものである。 これとは少し種類は違うが、細胞分裂の機構を説明する一つのモデルとして、表面張力の異同による液滴の分裂などを研究している学者もある。そういうおもしろい研究に対し・・・ 寺田寅彦 「物質群として見た動物群」
・・・そのために、物理的に見ていかにおもしろいものであり、またそれを追求すれば次第に量的の取り扱いを加えうる見込みがあり、そうした後に多くの良果を結ぶ見込みのありそうなものであっても、それが単に現在の形において質的であることの「罪」のために省みら・・・ 寺田寅彦 「量的と質的と統計的と」
・・・もしまた素人で同じ経験を持っている人があらば、その人は同じ問題の追求に加勢してくれるかもしれない。このような考えから、私はこの懺悔とも論文ともつかないものを書いてしまった。この全編の内容が一般の読者の「笑い」の対象になっても、それはやむを得・・・ 寺田寅彦 「笑い」
出典:青空文庫