・・・その癖又それを得れば成功で、失えば失敗だというような処までは追求しなかったのである。 しかしこの或物が父に無いということだけは、花房も疾くに気が付いて、初めは父がつまらない、内容の無い生活をしているように思って、それは老人だからだ、老人・・・ 森鴎外 「カズイスチカ」
・・・本質への追求は感覚的な美と独立して存在することができない。体得した真理は直ちに肉体の上に強い力と権威とをもって臨むごときものでなくてはならぬ。すべてが融然として一つである。 千数百年以前にわが国へ襲来した仏教の文化はまさにかくのごときも・・・ 和辻哲郎 「偶像崇拝の心理」
・・・そうして「どこまでも追究して見なければならない」というふうな言い回しが、「どこまでも追究して見なくてはならない」というのと幾分違った語感を伴なうに至っていることをも認めざるを得なかった。先生が「なければならない」という言葉に出会うごとに感じ・・・ 和辻哲郎 「露伴先生の思い出」
出典:青空文庫