・・・ つうやは彼を顧みながら、人通りの少い道の上を指した。土埃の乾いた道の上にはかなり太い線が一すじ、薄うすと向うへ走っている。保吉は前にも道の上にこう云う線を見たような気がした。しかし今もその時のように何かと云うことはわからなかった。・・・ 芥川竜之介 「少年」
・・・ 一〇 「つうや」 僕がいちばん親しんだのは「てつ」ののちにいた「つる」である。僕の家はそのころから経済状態が悪くなったとみえ、女中もこの「つる」一人ぎりだった。僕は「つる」のことを「つうや」と呼んだ。「つうや」はあ・・・ 芥川竜之介 「追憶」
・・・何だと。たった二串だと。あたりまえさ。団子の二串やそこら、くれてやってもいいのだが、おれはどうもきさまの物言いが気に食わないのでな。やい。何つうつらだ。こら、貴さん」 男は汗を拭きながら、やっと又言いました。「薪をあとで百把持って来・・・ 宮沢賢治 「祭の晩」
・・・ つぶつぶ泡が流れて行きます。蟹の子供らもぽっぽっぽっとつづけて五六粒泡を吐きました。それはゆれながら水銀のように光って斜めに上の方へのぼって行きました。 つうと銀のいろの腹をひるがえして、一疋の魚が頭の上を過ぎて行きました。『・・・ 宮沢賢治 「やまなし」
・・・ジャーナリズムのるつうさと「非常に職業化して来ている日本の小説壇」の気風に虚無感を誘い出されて、小説が「拘束」をもっていないということに苦しみはじめた若い能才の作家・批評家たちが、「ゴマカシの利かない」演劇へ新しい芸術意欲をかけて行こうとす・・・ 宮本百合子 「人間性・政治・文学(1)」
出典:青空文庫