・・・我々の神は一日のうちにこの世界を造りました。(『生命の樹のみならず雌の河童を造りました。すると雌の河童は退屈のあまり、雄の河童を求めました。我々の神はこの嘆きを憐れみ、雌の河童の脳髄を取り、雄の河童を造りました。我々の神はこの二匹の河童に『・・・ 芥川竜之介 「河童」
・・・だから仕方なしに僕は兎をくずしてしまって、もう少し小さく作りなおそうとした。でもそうすると亀の方が大きくなり過て、兎が居眠りしないでも亀の方が駈っこに勝そうだった。だから困っちゃった。 僕はどうしても八っちゃんに足らない碁石をくれろとい・・・ 有島武郎 「碁石を呑んだ八っちゃん」
・・・君は君のいのちを愛して歌を作り、おれはおれのいのちを愛してうまい物を食ってあるく。似たね。A おれはしかし、本当のところはおれに歌なんか作らせたくない。B どういう意味だ。君はやっぱり歌人だよ。歌人だって可いじゃないか。しっかりやる・・・ 石川啄木 「一利己主義者と友人との対話」
・・・ 伝え聞く、摩耶山とうりてんのうじ夫人堂の御像は、その昔梁の武帝、女人の産に悩む者あるを憐み、仏母摩耶夫人の影像を造りて大功徳を修しけるを、空海上人入唐の時、我が朝に斎き帰りしものとよ。 知ることの浅く、尋ぬること怠るか、はたそれ詣・・・ 泉鏡花 「一景話題」
・・・ 君が歌を作り文を作るのは、君自身でもいうとおり、作らねばならない必要があって作るのではなく、いわば一種のもの好き一時の慰みであるのだ。君はもとより君の境遇からそれで結構である。いやしくも文芸にたずさわる以上、だれでもぜひ一所懸命になっ・・・ 伊藤左千夫 「去年」
・・・僕はわざと作り笑いをもって平気をよそい、お貞やお君さんや正ちゃんやと時間つぶしの話をした。吉弥がまだ湯から帰らないのをひそかに知っていたからだ。「吉弥は風呂に行ってまだ帰りませんが――もう、帰りそうなものだに、なア」と、お貞はお君に言っ・・・ 岩野泡鳴 「耽溺」
・・・万延元年の生れというは大学に入る時の年齢が足りないために戸籍を作り更えたので実は文久二年であるそうだ。「蛙の説」を『読売』へ寄書したのは大学在学時代で、それから以来も折々新聞に投書したというから、一部には既に名を認められていたろうが、洽く世・・・ 内田魯庵 「鴎外博士の追憶」
・・・彼はいかにして砂地を田園に化せしか、いかにして沼地の水を排いしか、いかにして磽地を拓いて果園を作りしか、これ植林に劣らぬ面白き物語であります。これらの問題に興味を有せらるる諸君はじかに私についてお尋ねを願います。 * ・・・ 内村鑑三 「デンマルク国の話」
・・・ ろうそく屋では、ろうそくが売れるので、おじいさんはいっしょうけんめいに朝から晩まで、ろうそくを造りますと、そばで娘は、手の痛くなるのも我慢して、赤い絵の具で絵を描いたのであります。「こんな、人間並でない自分をも、よく育てて、かわい・・・ 小川未明 「赤いろうそくと人魚」
・・・年は十九か、二十にはまだなるまいと思われるが、それにしても思いきってはでな下町作りで、頭は結綿にモール細工の前まえざし、羽織はなしで友禅の腹合せ、着物は滝縞の糸織らしい。「ねえ金さん、それならお気に入るでしょう?」とお光は笑いながら言っ・・・ 小栗風葉 「深川女房」
出典:青空文庫