・・・畢竟するに婦人が婚姻の契約を等閑に附し去り、却て自から其権利を棄てゝ自から鬱憂の淵に沈み、習慣の苦界に苦しむものと言う可し。啻に自身の不利のみならず、男子の醜行より生ずる直接間接の影響は、延て子孫の不幸を醸し一家滅亡の禍根にこそあれば、家の・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・されども少しく考え見るときは、身の挙動にて教うることは書を読みて教うるよりも深く心の底に染み込むものにて、かえって大切なる教育なれば、自身の所業は決して等閑にすべからず。つまる処、子供とて何時までも子供にあらず、直に一人前の男女となり、世の・・・ 福沢諭吉 「家庭習慣の教えを論ず」
・・・殊に我日本国に於ては、古来女性の学問教育を等閑に附して既に其習慣を成したることなれば、今日遽に之を起して遽に高尚の門に入れんとするも、言う可くして行わる可らざるの所望なれば、我輩は今後十年二十年の短日月に多きを求めず、他年の大成は他年の人の・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
・・・例えば忠義正直というが如き、政治上の美徳にして、甚だ大切なるものなれども、人に教うるに先ずこの公徳を以てして、居家の私徳を等閑にするにおいては、あたかも根本の浅き公徳にして、我輩は時にその動揺なきを保証する能わざるものなり。 そもそも一・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・その大を見て驚くなかれ、その小を見て等閑に附するなかれ。大小の物、皆偶然に非ざるなり。人にして物理に暗く、ただ文明の物を用いてその物の性質を知らざるは、かの馬が飼料を喰うて、その品の性質を知らず、ただその口に旨きものはこれを取りて、然らざる・・・ 福沢諭吉 「物理学の要用」
・・・ 彼女は街のポウストにれんを呼び戻すはがきを投函し、一つ紙包を下げて帰って来た。 良人は妙に遠慮勝ちな、然し期待に充ちた表情で、時々さほ子の方を見た。彼女は黙り返って落付かず、苦々しげな気の重い風で、どうでも好い事にいつ迄もぐずぐず・・・ 宮本百合子 「或る日」
・・・ ブルジョア批評は読者啓蒙を等閑にして来た。これを読むのは、どうせ文学がある程度までわかる人間だ。そういう態度だった。今日のプロレタリア文学批評は、読者大衆に、小説のよみかたに際して新しい文化的基準を与えるというところまで精力的であるべ・・・ 宮本百合子 「こういう月評が欲しい」
・・・なかなか暑気が厳しいがいかがですか。盗汗は出ませんか。熱は? きょう中川によって昨今のまま一ヵ月お弁当をつづけておきました。夜具も持ってかえりましたが、あれではこの冬お寒かったのではなかったかと思いました。やっぱり細かいところが御不自由であ・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・ そう改めて云うと或は可笑しく響くかもしれませんけれども、私共は、お互が人間であると云う事を、余り等閑に附して、人を是非致しますから――。 彼女等の持つ力は、人間総ての女性に与えられるべきものであり、彼女等の苦しむ何等かの不安、不均・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・ 風呂場は、私共にとって、決して、等閑に附せられないものです。せっせと集注して何かをし、一風呂あびようと云って、程よい湯に浸る位、心も体も、のびのびとする事はない。 思うように出来るとすれば誰でも、自分で加減が出来、いつでも・・・ 宮本百合子 「書斎を中心にした家」
出典:青空文庫